13話 悪魔の舌

 少しだけ胸のつっかえが取れた気がする。


 修に何を話すのかと思ったら、エマは淡々と俺がいなくなった理由を語り始めた。

 最初は信じて貰えるわけがないと止めようとしたが、最終的には修、そしてたまたま通りかかった雫をも異世界へ召喚されていたという事実を信じ込ませることができた。


 今までは行方をくらましていたことを、なんと説明したらいいのかわからず曖昧なままにしていたが、とりあえず、この二人には打ち明けることができてよかった。


 召喚した側のけじめなのか、ガラにもなく真剣に丁寧に説明してくれたエマに感謝しないとな。


「よし、とりあえず信じて貰えたみたいだし、私からの話は以上だけど――なにか聞きたいこととかあるかな? 答えられる範囲で答えるよ」

「えっと、向こうの世界と言葉って一緒なのかな?」

「おっ、修くんいい質問だね。こっちとあっちじゃ似ているところはあるけど言語は全くの別物だね。私たちは特別な魔法アイテムを使用して今会話しているんだよ」

「魔法アイテム?」

「えーっと……あった。これこれ」


 修の質問を受けエマはポケットの中をごそごそして目当てのものを引っ張りだした。

 

「えっ、そんなのポケットに入れてたの?」


 修がそう言うのも無理はない。エマが取り出したのはぬるぬるとしたところどころ黒い斑点の入った四角形の物体だった。要するにこんにゃくだ。俺も初めて見るな。


「やー、まあそうなんだけど、空間魔法でポケットの中を広くしてるんだよ」

「へー魔法って便利だね」


 こいつ順応すんのはえーな。信じられずにポケットに手、突っ込んで思いっきりひっぱたかれろよ、前の俺みたいに。

 

「これを食べればあら不思議! 言葉が通じるようになるわけさ! しかも二年くらい。ちなみにタクミも召喚された時食べたことあるんだよ。でも召喚されたばっかで意識朦朧としてたから覚えてないかな~あの時は助かったよほんとに」

「なるほどだからお前らの話してることがわかったのか……ちょっと待て。そのアイテムの名前はなんていうんだ」


 こんにゃく然とした見た目にその能力――まさかとは思うが……。


「えーと『悪魔の舌デヒルタン』って名前だよ」

「なんだ、よかった」


 俺の心配も杞憂に終わったと思ったが、ふと昔こしらえた雑学のうちの一つが頭をよぎった。

 

 こんにゃくは原料であるこんにゃくいもの花びらがおどろおどろしい見た目をしていることから、外国では「悪魔の舌」と称されることがあるのだ。ほんとうなんだ、ググればわかる。

 

 つまりだ、あれは言い換えているだけで見た目通り「こんにゃく」なわけだ。

 食べると言葉が通じ、会話ができるこんにゃく――言葉を自動翻訳するこんにゃく。俺の言わんとすることはわかってくれたか。ネズミ嫌いのロボットが映画でことごとく使うアレだ。


「おいエマ。あそこにメガネを掛けた男子生徒が見えるだろう」

「うん、そうだね。あの人がどうしたの? 」

「あの人でいいから、とりあえず謝ってこい。今すぐに」

「え、なんで? ちょ、押さないでよもう~」


 階段の下に丁度通りかかったその男子生徒の前にエマを無理矢理連れて行く。


「えっ、その……ごめんなさい?」

「は、はい?」


 無理はない。俺でもそんなリアクションになるだろう。同じクラスである藤子君は絵に描いたようにキョドっているが、謝罪を終えると俺たちはそそくさと元居た場所に返った。ごめん藤子君、自分の名前と見た目を恨んでくれ。


 自分でもなにがしたいのかわからないがとりあえず謝った。これで万事オーケイだ。


 しばらくしてエマに、言葉がわかるのは魔法によるもので、翻訳機能のあるアイテムなんて冗談だと告げられ、俺は藤子君に再度謝りにいった。紛らわしいことしやがって。

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