9話 友情決裂
「起立・姿勢・礼!」
「「ありがとうございました!」」
とてつもなく長く感じたホームルームがついに終わりを迎えた。
礼が終わるや否や、クラスの女子は教室の最後方にあてがわれたセインとエマの席目掛けてバーゲンセールのおばちゃんの如く突進していく。
「二人ともどこから来たの?」
「こんな時期に転校してくるって珍しいね」
「一緒に転校してきたってことは知り合いなの?」
「趣味とかあるのかな?」
駆ける勢いのままに、矢継ぎ早に繰り出されるクラスメイトからの質問は転校生に課せられた「第二の試練」である。これの回答によって今後のクラスでの身の振り方も大きく関わってくるだろう。
ちなみに「第一の試練」はファーストコンタクト――自己紹介である。
見てくれを重視するこの試練をクリアすることができるのは、俺の今まで見てきたものを参考にすると半分半分。まあ二人はお世辞抜きにかわいいから優にクリアできただろうが、「第二の試練」である質問攻めには不安要素がある。
大丈夫なんだろうなあいつら。文字は勉強してきたっぽいこといってたけど不安だな……。
教室の中央に位置する俺の席からは聞き取りづらいので、耳に手を当て聴覚を研ぎ澄ます。が、そんな俺の肩に何者かの手が置かれた。
振り向くとそこにはクラスの陽キャ筆頭兼小学校からの友達である
「おい、拓実さんよ……なんださっきのは」
「…………」
さっきの――恐らく自己紹介時にセインが俺に抱きついてきたことだろう。
雄牙の後ろには数人の陽キャ共が控えており誰もが憎しみを含んだ眼光で俺の体を突き刺している。
「俺たちの非リア同盟はどうなったんだよ。ええ?」
取り巻き聞こえないよう耳元で雄牙は俺にそう聞いてきた。
「え、お前そんな感じなのにまだ女苦手なの?」
「は? いや、そんなんじゃねーし。あれよあれ……そう! 男に二言はねー的な奴でお前との約束守ってやってんじゃんよ!」
明らかに図星を突かれ動揺している目の前のヤンキー、実は異性への免疫が皆無。思春期真っ只中のうぶな奴なのである。
小学校の宿泊学習の夜にそんなことをカミングアウトされ、その場のノリで組んだ同盟を今も破っていないあたり根は真面目でいいやつである。
髪は赤く染め、ピアスなど開けていて近寄りがたい雰囲気を出してはいるが、内面を知っている俺は全然怖くない。
髪を染めるときは親におでこと膝に痣ができるほど土下座してたし、ピアスを開ける瞬間なんか「お母さん! 健康な体に生んでくれたのにごめん!」なんて意味の分からないことを抜かしていた。じゃあやんなよ。
「いや、あいつとは……姫宮さん? とはなんの関係もないよ。前の学校で俺に似たやつでもいたんじゃねーか?」
「ああ、確かにそれはあるな。お前の平凡な顔は各学校に一人くらいいそうだ」
「いや、言いすぎだろ!」
こいつ、俺の小学校のときのあだ名、「ノーマルくん」を知っててそんなこというか。てか待てよそういやあだ名付けたのこいつじゃね?
「まあとにかく安心したよ。お前に彼女でもできようもんならみんなでボコボコにしてまた一年学校来れないようにするところだった」
「いや、勘弁してくれよ」
俺が異世界へ冒険に出ていた一年間は、結局宇宙人に連れ去られた後、記憶を削除され返還されたということで落ち着いた。
信じて貰える気は毛頭なかったが、何度聞いてもとんちんかんな答えしか返さない俺に、母さんが諦め納得してくれた。学校側には深刻な病気にかかったがどうのこうので説明してくれたらしい。
今思えばこう話がすんなり進んだのも向こうの世界で得た魔力のお陰なのかもしれない。魔力を保持しているものには神々からの恩恵が与えられるどうのこうのって聞いた気がするし、まあなんとかなったし深く考えないようにしよう。
「タクミ! 助けてー!」
雄牙の言葉に安堵したのも束の間、というか一瞬。俺の耳にその声が届いたときにはゼロ距離に泣きつくセインの姿があった。
「みんながタクミとどんな関係なのかって聞いてくるの……なんて答えたらいいかわかんなくて……どうしよう」
「いやお前。どうしようじゃねえよ……」
「あ、やっぱり付き合ってるの?」
「拓実君が一年居なかったのに関係あるの?」
「じゃあ拓実君追っかけて転校してきたとか!?」
恐らくさっきのセインの言動についての質問攻めにあったのだろう。
エマならそんな質問軽くいなしてみせただろうに、こちらに手を合わせニヤニヤして「ごめん」と口パクで伝えてくる。絶対わざとだあいつめ。
「た、拓実! あの時の指切りげんまんは嘘だったのかよ! もういい、学校中にいいふらしてやる……いくぞみんな!」
「おおー!」
ほろりと涙をこぼした雄牙は吐くように言うと、教室の外へと飛び出していった。それに続いてクラスメイト達も教室を後にする。
その後、教室の外からクラスメイトの男子達が俺の悪口を言って回る声が聞こえた。
俺は腕を引っ張るセインの力に抵抗することも忘れただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
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