罪人逃避行

拉麺眼鏡

罪人逃避行

男は路地裏から出たのち、その手に持っていた血液に染まったドライバーを土の中に埋めて路地裏から去っていく。車が走る都内で外は雨、血と土にぬれた手が綺麗に

なる気がしている。

なるべくフードを深く被って顔が濡れないようにしているようだ。


タクシーが近くに来るのを見越してタクシーを呼び止め、車内に入る。

「どちらまでですか?東京駅にでも行くのなら三千九百円ですが...」

男はどこか遠い所へ行きたいようだ。

「...栃木のほうまで。五万円以内で頼む。」

タクシー運転手は少し不振に思ったが、深く考えるのはやめて車を走らせた。


「ところで、こんな遅くに遠くまでとは珍しい...何かあったのですかね?」

タクシー運転手は優しく男に問いかける。


「...まあ、いざこざがちょっと。家にいたのに急に上司に呼ばれて...」

少し口を噤むが、事情を話し始めた。


「なるほど、それは大変なことが起きましたね...どういうことを言われたのでしょうか...」運転中で前を向きながらも、男の話を聞いていた。


「些細なことですよ。仕事のミスで情報が漏れたっていう。私服のままで行って、

そのまま怒られてなんかイラついたのでどこか少し遠いところで羽を伸ばそうと

思って。こんな遅くに呼び出して迷惑っていうことですよ。」


「ほう...」運転手は少し興味を持った。男の服の袖にはほんの少し血痕が

残っている。別の理由があるのだろうと確信した。


「一応何か請求されたりしたら面倒なので財布もってきていったんですけど、

傘さしていったのに傘を忘れちゃってそのまま会社から出ちゃったから...

ちょっとぼーっとしてて出てきちゃって...そのまま傘ささずに歩いてました。」

そうは言う男だが、額に少し汗が出ている。


「...ところで、あなたの袖に何かしらついていますね。塗装用のペンキですか?」

とここで袖についた血痕の話を持ち出す。


「...!ああ、これですか。そうですよ、これは部品を塗装する用のペンキで...」

男は少し焦ってるように見えた。何かやはり隠してるらしい。


「...あと、先ほどあなた会社からゆっくり出てきたといいましたよね?路地裏から

どう見ても逃げるように走っていたように見えたのですが...」

と先ほど見えた真実を言う。


「な...何を言ってるんだあんた!その言い草は...」

段々男の動揺のしぐさが強まってきた。


「あと、あなたが出てくる路地裏の近くをあなたが乗る前に通ったのですが、

男性の悲鳴が聞こえましてね...音量は小さかったですけど、そういうものはある程度聞き取りやすいものなんですよ...雨の中でも。人によってですが。」

とさらに動揺させようとする。


「何を言ってるんだ!俺は殺人なんて...」

「おや、誰が殺人なんて言葉使いましたっけ?」

「はっ...」

男はその事実に気づき、力が抜けたようにまた座る。

「...なにがあったのか聞かせてくれませんか?私、こういう話は好きでしてね...

警察にいきはしませんから、落ち着いて話してください。」

運転手がそういうと、男はフードを取ってから話を始めた。


「...きっかけは上司の嫌がらせだった。会社に入ってからもう数年たって、

仕事も順調に軌道に乗り上げてきたんだが、そこで上司が邪魔してきやがった。

あいつが作業中にいつも邪魔してくるんだ。それで、今日夜に会社にこいと言って

きたんだ。それで会社に向かったら、あいつから

『お前の今までのミスを言われたくなかったら今ある全財産を俺に渡せ』

だと。意味がわからねーよ。それで、親にも話はできるとか脅しをしてきた。

それでいつからか歯止めがかからなくなって...いつのまにか刺してた。

意外とすっきりするもんだな。刺した直後は動揺してた。」

なにかがすっぽりと抜けたような口調だった。


「そうですか...それより、お客さん。目のくまがすごいですね。毎日相当な時間

働いてたんですか?今のうちに寝ておいた方がいいかもしれませんよ?

寝てる間に警察のところに行くなんてマネはしませんよ。」

と、優しく運転手は声をかける。

「..ああ、ありがとう。」

男は安心したようにフードを顔に深くかけ眠りについた。


その一時間後である。タクシーは北関東あたりの県につき、そこで男を起こした。

「到着しました。」

「ああ、すまない...しっかり金は払うよ。」

と、財布から5万円を出そうとするがそれを止められる。

「金は要りません。帰りの時に使ってください。どうかお気を付けて。」

男を下ろしてそれだけを言うと、タクシーは去っていった。





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