セイントナンバー王国編

プロローグ:未知なる数の王国へ

 夏の終わりを告げる風が、アリア達、旅の一行の頬をなでる。。アリアは遠くを見つめていた。彼女の銀色の髪が風に揺れ、エメラルドグリーンの瞳には深い思索の色が宿っていた。


 そこへ、急ぎ足でティモシーが駆けてきた。


「先生! 大変です! 旅の商人から驚くべき話を聞いたんです!」


 アリアは、ティモシーの興奮した様子に微笑みを浮かべながら尋ねた。


「何があったの、ティモシー? そんなに慌てて」


 ティモシーは深呼吸をして、興奮を抑えながら話し始めた。


「セイントナンバー王国という国があるそうです。そこでは、数学が宗教のように崇められているんだとか。建物はすべて幾何学的な形をしていて、人々は日常会話でも数式を使うんだそうです!」


 アリアの目が大きく見開かれた。

 彼女の心に、かつてない興奮が湧き上がる。


「セイントナンバー王国……? 数学が宗教のように? 面白いわね」


 アリアは空を見上げ、また遠くを見つめるような目つきになった。

 彼女の脳裏には、数式と魔法が交錯する世界の姿が浮かんでいた。


「ねえ、ティモシー。その国に行ってみない? きっと、私たちの理論にとって大きな発見があるはずよ」


 ティモシーは驚きの表情を浮かべた。


「えっ、本当ですか!? でも、先生、そんな遠くまで……」


 アリアは優しく微笑んだ。


「大丈夫よ。この旅は、きっと私たちの研究にとって大きな意味を持つはずだわ。ガウスの言葉を借りれば、『数学は科学の女王であり、数論はその女王の女王である』。その女王の国を訪れるのよ。どんな発見が待っているか、想像するだけでわくわくしない?」


 アリアの目は、かつてないほどに輝いていた。彼女の心の中で、新たな冒険への期待が膨らんでいく。


「マギウスも誘ってみましょう。きっと彼女も興味を持つはずよ」


 その時、虚空からマギウスの姿が現れた。


「私の名前が聞こえたような気がしたが、何かあったのか?」


 アリアは嬉しそうに説明を始めた。


「ちょうど良かったわ、マギウス。次はセイントナンバー王国という国へ行ってみないかしら? 数学が宗教のように崇められている国なのよ」


 マギウスは眉をひそめた。


「数学が宗教? 興味深い話だな。だが、そんな国に何の意味がある?」


 アリアは熱心に語り始めた。


「考えてみて、マギウス。私たちの魔法と科学の融合理論。その根底にあるのは、厳密な数学的思考よ。その数学を極限まで追求している国を訪れることで、私たちの理論にも新たな洞察が得られるかもしれないわ」


 マギウスの表情が和らいだ。


「なるほど。確かにその通りだ。そういうことならば私も興味が湧いてきたぞ」


 アリアは満足げに頷いた。


「決まりね。ではみんなで行きましょう。この旅は、きっと私たちに大きな変化をもたらすはずよ」


「プラトンは『神は常に幾何学する』と言ったわ。セイントナンバー王国は、まさにその言葉を体現しているのかもしれない。私たちの理論が、その国でどのような反応を引き起こすか……考えるだけでゾクゾクするわ」

「プラトン? それは誰だ?」


 マギウスの問いにアリアは「……そうだったわね」と頭を振った。


「なんでもないわ。私の前世の残滓……そういった類いの物かしら? まあ、あまり気にしないで」

「残滓……、か……」


 マギウスが意味深な瞳でアリアを見つめる

 アリアの瞳に、冒険への渇望が宿っていた。彼女は、自分たちの旅が単なる観光ではなく、学問的な探求の旅になることを確信していた。


「さあ、準備を始めましょう。新しい発見が、私たちを待っているわ」


 アリア、ティモシー、マギウスの三人は、隊列を進めた。彼らの前には、数学と魔法が交錯する未知の世界への扉が開かれようとしていた。アリアの心は、これから始まる冒険への期待で満ちあふれていた。

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