夢見骨

うみつき

【序】

 妻が死んだ。享年五十二歳。天晴れの、寒さが少し和らいだ、春先の中のことであった。冬の終わりにしては憎いほどの、暖かさ、そして晴れ模様。それはまるであなたの瞳のようだった。嫌な予感がした明け方、無理矢理にあなたの瞼を開いた。あなたは笑った、大丈夫よ、と。そしてそのまま、二度と動かなくなった。少しづつ、冷たくなるその身体をかき抱いていた感触と、焦りが、生々しく記憶にこびりついている。骨壷を見やった。それが現実であることを叩きつけられる。あぁ、もう、二度とだ。本当に二度とだ。あの暖かな春のような瞳を見ることは、一生叶わない。この先、一生。あの声を聞くことも、柔らかな肌に触れることも、暖かな、瞳を見ることも、二度とない。俺の愛した人は、もう隣には居ないのだ。これが現実だ。苦しい、哀しい、あんなに愛していたのに、なぜ。なぜこんな目に合わねばならない。この世界で愛おしいのは、あなただけであったのに。

 早急な別れは、俺にかなりの損害を与えた。別れの言葉を告げることすら許さず、なんの知らせもなく彼女を連れて行った別れ、は。実に哀しく遺憾であったが、自然事象は話など聞いてくれはしないことを俺はよく知っている。それでも、いや。だからこそ。俺は人一倍哀しかった。

 ただ、もう一度会いたいと願った。あの日々を、忘れたくはなかった。夢でも、幻覚でも、何でも良い。都合のいい妄想だったっていい。俺の意志の介在しないあなたに、会いたい。あの狭い壺の中にいるあなたではなく、あの頃のように笑う、あなたを。隣で笑っていられた、あの日に巻戻ってくれはしないかと。せめて追体験はできないのかと。叶う由もない願いを囲いこむように、一人虚しく、部屋の隅で丸まって、小さくなったあなたを抱きしめていた。

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