熱中症

結城灯理

第1話

 死にたいなんて努力尽くしてから言えよ。

 どうせ、君はなにもしてないんだろう。

 やることと言えば、愚痴を吐いてストレスを溜めた後、惰眠を貪るだけだ。

 わざわざ嫌な思いしたこと堀り起こす必要なんて本当はないんだ。君は誰かに認めてほしいだけ。自分でも分かってるだろ。

 でもまぁ、君は幸せ者だよな。頑張りたくても頑張れない人が大勢いる中で、君はあえて頑張らないわけさ。まぁ、贅沢だよね。



 そんな綺麗事言うな?ああ、知ってるよ。君が絶望で汚れてることぐらい。

 少しぐらいは綺麗になろうよ。このままじゃ見向きもされないぞ。

 もちろん、君の苦しみを否定するつもりはないよ。人の感じ方は人それぞれだからね。それに、僕は君がどう生きようと知ったこっちゃないんだよ。君が好きにすればいい。

 自由の付随する責任から逃げるのも、なにかを選択して没頭するのも君の自由だ。

 君たちにはある程度の自由が与えられているはずだろう。もう一度言うけど、好きにすればいい。



 なんだよ、弱音で対抗しようとするわけ? そろそろいい加減にしないと。

 君の弱音を一番耳にするのは君自身だ。

 そのさ、性癖なのか、なんなのかよく分かんないけど、自分の首絞めるのそんなに楽しいかな。僕はそう思わないんだけど。どうせ苦しいだけでしょ。



 なに。自信なんかなくていいんだよ。自信に満ち溢れたが最後、もう二度と上にいけなくなるじゃないか。反省しなくなる。

 それに、自分が正しいって過信したら、不用意に他人のこと傷つけそうだろ。いいんだよ自信なんかなくたって。



 なんだよ。まだ立ち上がる気にならないわけ? ああ、そうか、君は他人の目を気にしてるんだな。

 これまで相当気にしてきたんだろう。いいか、そんな馬鹿な真似はさっさとやめるんだ。

 他人から自分がどう見えるのかなんて、コントロールできっこないんだよ。これだから最近の若いやつは。


 いいか、君は全知全能じゃないんだよ。自分のことすらよく分からないのに、他人のこと理解しようとするって一体何様なのさ。

 科学君の発展でなにもかも操作できると思ってるかもしれないけど、この世界は全部必然で説明できるわけじゃないんだぞ。分かってるよね。むしろ、不条理ばかりさ。

 君だって、自分が生まれたの、不思議でしょうがないだろ。種の繁栄とか言われても、意味は欲しくなるだろ。そういうもんさ。

 君がどうにかできるほど、他人は君の思う通りじゃない。

 というか、君が他人を見たいままに認識してるのさ。都合のいいこと極まりないよな。


 自分の満足を優先するんだ。

 他人に好かれようとすると、君は人生の手綱を他人へ譲ることになるぞ。王様が一人でなにもできないように、ただただ脆くて孤独な存在になるんだ。

 君の人生だ。君が決めなければいけないに決まっている。誰かの背中を追い続けて安心するのが好きなら例外だけどね。



 エゴじゃないかって? ああ、そうさ。なにが悪いんだよ。だって、君死ぬぜ? 

 君が君であったって痕跡欲しいだろ。人生は死に方だって言葉は、傲慢過ぎて間違ってると思うけど、誰かの心のなかで生きられたら最高に決まってる。

 まず、君は自分の心に自分を刻み込まないといけない。君が君を生きるならね。

 不思議な空間にぶん投げられた時間が君の今だ。不思議さを受け入れないといけない。



 命令口調ばっか? そうだね、そうだね。君の文句は全部聞いてやるよ。君の言葉は君の思考そのものだからね。感情と言ってもいい。意識とか認識と言ってもいいかもね。難しい話はいい。

 つまるところ、君の言葉は君の世界全てなわけだ。


 君が今、僕の言葉に触れて浮かんだ言葉を教えてよ。きっと、鋭くて汚らしいものだろうね。まぁ、想定通りさ。そんなものだろうと思ってたよ。もっと、もっと寄越せよ。君の本性を暴いてやる。汚らしくて、低俗で、どうしようもなくちっぽけでたまらないだろう?幼稚で、稚拙で退屈な君の内面が滑稽で仕方ないよ。


 ああ、嘘で逃げるなら逃げたらいい。ありのままの自分とか言いながら都合よく愛でればいい。

 なぁ、もっと、もっと寄越せ。

 こんなこと思ってはいけない? 許される感情じゃない? 知ったこっちゃねぇ。

 自分に嘘つくなって言ったよな。化けの皮なんてさっさと捨てろ。見栄、虚栄心、プライドもゴミ箱直行だ。役に立たないからな。罪悪感とか絶望で逃げるのもなしだ。

 仮面つけてピエロ演じるなら、二度と本当の自分が分からないとか言って泣くなよ。君が執拗に隠してるから分からなくなるのさ。



 飛び込め。もっと、心の奥深く。もっと、もっと熱くて輝いている場所へ。どこかにあるはずだ。絶対に。

 君が、いや、違う。


 僕が、自分を愛そうと思えるなにかがあるはずだ。

 触れたときにどこまでも突き抜けるなにかがあるはずだ。

 きっとどこかに、明日を生きるためのなにかがあるはずだ。

 普段、他人の目を気にして隠れたなにかがあるはずだ。

 恥を恐れて捨てたなにかがあるはずだ。


 もっと、もっと。自分が自分だと感じられるなにかがあるはずだ。

 些末な事柄を全て凌駕するなにかがあるはずだ。

 言い訳と冗談で凝り固まった頭を吹き飛ばすなにかがあるはずだ。

 心が震えてどうすればいいか分からなくなるなにかがあるはずだ。

 全身が世界と繋がるようななにかがあるはずだ。


 もはや、言葉で収まらないなにかが、きっと、あるはずだ。あるはずなんだ。


 言葉よ。頼むから僕を超えてくれ。

 足りない。足りない。足りなさすぎる。


 僕は君に、言葉をぶつける。

 君は僕に、世界をぶつけてくれ。

 僕は君の世界が欲しい。

 君の心が欲しい。


 さぁ、僕よ君になれ。

 触れてくれ。共に振れてくれ。

 それ以外はなにも要らない。死を超えて震えろ。


 君に僕の病熱を。

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熱中症 結城灯理 @yuki_tori

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