遺品整理

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第1話 故郷への帰還

やや肌寒い朝、故郷の山奥の町に三十年ぶりに戻った。

母が亡くなり、放置された家を整理するためだ。


母の不審な死の知らせが心に深く刻まれ、ただ静かにこの地に向かっている。


感慨深く、複雑な気持ちが渦巻く。


徒歩では行けないので、車を利用した。

都会の喧騒から離れ、静かな山中へと向かう道程が変化していく。


最初に終わりを迎えたのは、高層ビルの間を走っていた高速道路だった。

そこから、整然とした街並みが消え、広がる田畑が迎えた。


田畑の中には手作りの木の柵や古びた納屋が点在し、

時がゆっくり流れるような印象を受ける。


車の窓から見える景色は、新しいアパートメントから古びた家々や小さな農場へと変わる。


家々の屋根は赤褐色や緑の苔に覆われ、かつての賑わいが感じられる。

懐かしさと寂しさが交錯し、心に静かな波紋が広がる。


ビルが減り、緑が視界に溢れ、空気が新鮮になる。町からさらに離れると、景色はより自然に近づく。


農村の風景が広がり、道の両側には雑木林が生い茂り、山の稜線が遠くに見える。


木々は静かに立ち並び、葉の間から細い陽光が降り注ぐ。


道路の脇には小川が流れ、その水は清らかで透き通るほどの青さを見せる。

小川のせせらぎが自然のささやきのように耳に心地よく響く。


時折木製の橋がかかり、足元の水の流れがわずかに波立つのが見える。


街灯の明かりが消え、昼間の自然光に包まれると、空気はひんやりとして、懐かしい香りが漂う。


湿った土の匂いや枯れ葉の擦れる音が心に深くしみわたる。


山道に入ると、木々が立ち並び、道は狭く曲がりくねる。


木々の幹は古びてひび割れ、根元から青々とした苔が生えている。

エンジンの音が大きく感じられ、ワイパーが霧の湿気を拭う音がこだまする。


木々の間から差し込む淡い光が霧に包まれた山道を青色に染める。


霧はまるで生き物のように動き、その濃さが変わりながら幻想的な景色を作り出す。


木の葉が風に揺れ、わずかな振動が車の窓を通して伝わる。


霧に包まれた山道を走りながら、冷たい空気に包まれている。

霧が山道を包み込み、木々の間を漂い、幻想の中を歩いているような錯覚を覚える。


懐かしさと不安が交錯する瞬間だ。


山道を進むと、道はゆるやかに広がり、山の奥深くにひっそりと佇む村へと近づく。村が故郷であることは記憶にないが、不思議な感覚が心をよぎる。


車のエンジン音が山の静けさに溶け込み、緊張感が解けていく。


村の入り口には古びた木製の看板が立ち、年月の経過とともに風化し、かすかに曲がりくねっている。


看板の周りにはつる植物や小さな花が絡みつき、自然に溶け込んでいる。

村の入り口を通過すると、道路は狭くなり、古い家々が立ち並ぶ。

家々の屋根は赤褐色の瓦で、いくつかは藁葺きの屋根が見え隠れしている。


家々の壁は年月を経て色褪せ、自然と一体化している。

窓からはぼんやりとした灯りが漏れ、かつての生活の温かさが感じられる。


道の両側には手入れが行き届かない庭や小さな畑が広がり、古びた農具が無造作に置かれている。


時折、高齢の住人が静かに草むしりをしていたり、杖をついて歩いていたりする姿が見られる。


その姿は、時間が止まったかのような穏やかな雰囲気を漂わせる。


車がゆっくり進む中、村の広場が見えてきた。


広場には古い石畳が敷かれ、中央には小さな井戸がある。

井戸の周りには今も使用されているのか、水を汲みに来る村人の姿が見える。


井戸の脇には色とりどりの花が植えられ、村の人々が育てた花々が自然の中に鮮やかなアクセントを加えている。


村の奥へと進むと、深い霧が町全体を包み込み、視界がほとんどないほどになる。


霧は白いカーテンのように町全体を包み、物の輪郭がぼんやりとしか見えない。


軽自動車を運転しながら、車のワイパーが霧の湿気を取り除く音とエンジンの低い唸りが静寂を破る。


町を進むうちに道は狭くなり、両側には鬱蒼とした木々が立ち並び、霧がその間に漂う。


村の奥に母の家が見えてきた。


記憶にないその家が、霧の中で淡く、確かに存在感を放つ。

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