第27話
「…っ、はぁ、」
家に入る前に深呼吸する。
シェフに会える喜びと、元カノという存在の不安が交錯していた。
今日は初めてのデートなんだから、元カノのことなんか忘れて楽しむ。
心を統一させ、ベルを鳴らした。
するとすぐにドアが開いた。
「お邪魔します」
平日のシェフもかっこいいけど、休日のシェフもかっこいいなぁ。
なんて馬鹿なことを考えながら家に入った。
「どうぞ。寒かっただろ。鼻真っ赤…」
シェフが笑いながら迎えてくれる。
その笑顔を見て、少しだけ心が和らいだ。
「ちょっとだけ…」
「だから迎えに行くって言ったのに」
シェフが少し心配そうに言う。
駅からここまで徒歩10分。
迷子になることもないだろうし、迎えは断った。
「ほんとに気にしないでください」
断ったのは私だから、そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいのに。
「ココア作ってやるから待ってろ」
そう言ってキッチンに向かった。
「ありがとうございます…」
「楽にくつろいでて」
シェフが優しく言う。
「はい」
ソファに座り、部屋を見渡す。
ここがシェフのお家か…
大人っぽい。
元カノともお家デートとかしたんだろうか…。
そりゃ、したことあるよね。
「どうした?元気ないけど」
シェフが心配そうに尋ねる。
その優しさに触れて、少しだけ心が痛んだ。
「そうですか?」
無理に笑顔を作って答えた。
いけない。
元カノのことは考えないようにするって、さっき決めたばっかりなのに。
「いや、違うならいい」
シェフが少し戸惑いながら言う。
「…」
せっかくのデートだから楽しまないといけないのに、心が重い。
シェフの優しさに触れるたびに、元カノのことが頭をよぎる。
「はい」
シェフがココアを渡してくれた。
「ありがとうございます」
温かいココアを受け取り、その温かさに、少しだけ心が和らいだ。
だけど、どうしても元カノのことが頭から離れない。
「何?」
シェフを見つめているのがバレてしまった。
シェフに対する疑念ばかりが膨らんでいく。
「なんでもないです…」
視線をそらし、答える。
この前隣にいた人は誰ですか。なんて言ってもきっと誤魔化されて終わりだろう。
むしろ、それで終わりならいい。
「テレビでも見るか?」
シェフがリモコンを手に取る。
「はい」
テレビを見ても心は晴れない。
普段なら笑って見れるトーク番組でも、今はそんな余裕はなかった。
ユンギさんも私がいつもと様子が違うことに気づいているのか、お互い何も話さず時間だけが過ぎていった。
このままじゃダメって分かってるのに。
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