第Ⅱ時空史

自称厨二病

序章 残り残量

0.始まり

0-1 OFF

  智子ともこが目を覚ました場所は上にも下にも終わりが見えない書庫だった。こんな所に見覚えはない。

(どうしてこんな所にいるんだろう)

 智子は立ち上がり周りを見渡した。

(なんだここ……図書館?)

 智子は困惑した表情で歩き出した。

(本当になんなんだここ)

 智子の疑問は尽きなかった。

(そもそもどうやってここに来たんだっけ)

 智子は歩きながら考えた。

(6時半に退社して、それから)

 智子は少しの間ここに来るまでの出来事を思い出そうとした。

(そうだ、車に弾かれたんだった)

 その時智子はなにかあるかと思いガラケーを開いた。

[電池残量 0%]

(だめだこりゃ)

 智子はスーツのポケットにガラケーをしまった。


 何も出来ることがなく智子はずっと同じ場所に突っ立っていた。

 しばらく経ったあと、智子の近くにあった階段から一人の少女が降りてきた。

「こんにちは。智子さん。こんな所に居たのね」

 その少女は話しかけてきた。

「えっと、貴方は誰ですか?」

 智子は目の前にいる微笑んでいる少女に尋ねた。

「わたしはクリスタ。はじめまして。この書庫の持ち主だよ」

 クリスタという少女は話し続けた。

「あなたがここに来るまでのことって覚えてる?」

 智子は思い出そうとした。無駄だった。

「ごめんなさい。覚えてないです。ここはどこか分かりますか?」

 クリスタは口を開いた。

「ここは冥界だよ」

 智子はあまり驚いた様子ではなかった。

「私は帰らぬ人になったということですか?」

 クリスタは表情を変えず答えた。

「そうだよ。きみはあまり驚かないんだね」

 智子はうれしそうだった。

「私の身に何があったか知っていますか?」

 クリスタは分かりきったことだと言わんばかりに答えた。

「きみは交通事故で死んだ。よくある交通事故で、特別な点もないしニュースで大々的に報じられることもない事故。そのせいできみは意識不明の重体になっちゃったけど。救急車が到着した時君はまだ助かるかもしれない容態だった。でも助からなかった。きみは元々そういう運命だったし、もし何か奇跡が起こって助かっていたとしてもきっと君の肉体はボロボロで使い物にならなかっただろうね」

 ここに来た時から智子の目には光が宿っていなかった。

「私を弾いた運転手はどんな方なのですか」

 クリスタは淡々と回答を並べていた。

「別に悪い人じゃないよ。ただ運が悪く、この世の地獄みたいな企業で働いちゃってたみたいで疲労と睡眠不足の果てに君を弾いたんだよ」

 智子は安堵した。

「なら良かった。私に恨みがあったとかじゃなくて」

 クリスタは不思議そうな顔をした。

「きみは不思議な人だね。人生がつまらなかったの?」

 智子は表情を変えずに答えた。

「本当に山も何もない人生でした」

 クリスタは深く考えていなさそうな表情で話した。

「きみは苦難も喜びもない平坦すぎる人生を楽しむことができない性格だったんだね」

 智子は諦めたような笑みで話した。

「そうだったのかもしれませんね」

 クリスタは偶然思い出して言った。

「そういえばちょっときみに提案したいことがあるんだ」

 智子は相槌を打った。

 「なんですか?」

 クリスタはそのまま説明を続けた。

「今誰かの人生を使ってとある実験をしようと思ってるの。きみがその実験の協力者になってくれないかと思って」

 智子はニコニコ笑っていた。

「なんの実験なのですか?」

 クリスタは智子が興味を持ってくれて嬉しそうだ。

「説明すると、人々がわたしたちの存在を記憶してくれたら何か変わることがあるか確かめる為の実験なんだ」

 クリスタはどんどん話していった。

「実験方法は、わたしたちを何らかの媒体を通して一つの人間界の世界線に広める。その後どの程度広まるかはまだ知らないけどたまたまわたしたちのことを知った人間がいたらその本人、冥界や神界、全時空に対しどのような変化があるか調べる」

 智子の表情はずっと明るい。

「それってつまり次の人生で貴方たちの存在を知らせるために何らかの作品を創って欲しいということですか?」

 クリスタは解説ばかりしていた。

「うん、そういうこと。小説でも漫画でもなんでもいいからわたしたちの存在を知らせて欲しいんだ」

 智子はなんとなくびっしり並べられている本を見てから言った。

「私が生まれ変わった時、前の私の記憶は無くなっているんですか?」

 クリスタはつっかえることなく答えた。

「うん、ないよ」

 智子は不思議がった。

「じゃあどうやるんですか?」

 クリスタは機械のように回答した。

「きみが何歳かになった時にわたしとしたこの会話を思い出してもらう。そうしたら、君は自分が引き受けた実験のことを知ることができる」

 智子はやっと納得した。

「ああ。こういう仕組みだったんですね」

 クリスタも智子と同じように楽しそうだった。

「別にイヤなら嫌で大丈夫だけどこの実験に協力してくれたら嬉しいな。それと一応言っておくけど実験に協力したら純粋に人生を楽しむことは不可能になるよ」

 智子の頭の中にはてなマークが出てきた。

「純粋に人生を楽しめなくなる?」

 クリスタは着々と答えた。

「うん。この全時空の真実が分かっちゃって無気力になる被験者の方は結構いたよ。君の転生先に住んでた人ではないけど」

 智子は一瞬ぼうぜんとした顔になった。

「そうなんですか……」

 クリスタは優しいカウンセラーみたいな表情のまま話した。

「でもそのかわりただのつまらない歴史にも残らない人生ではなくなる。少なくとも私たちには語り継がれる。私たちに協力してくれた数少ない人間として」

 智子は少し悩んだ。

「協力してみたいです」

 クリスタが手を少し上げるとその手にはタブレット端末が握られていた。

「本当にいいんだよね?」

 智子は黙って首を縦に振った。

「ありがとう。必要になったらこの端末は使えるようになるからね」

 クリスタは智子の手に一台のタブレット端末をのせた。

「それともう次の人生を始めてもいい?」

 智子は決意が固まった顔だった。

「はい」


 クリスタはお辞儀をした。

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