第10話 彼女の定義

るいさんを背負いながら海岸線へ。


遠くに見えた人影はもう無い。


【ごめん。私が捻挫なんてするから】


【いや、俺が戻ったからだ】


【美咲ちゃん、いいな…】


【なんか言った?波の音で聞こえない】


【何も言ってない…もういいの。裕二、もう大丈夫だから】


【本当?無理しないで】


るいさんは、ゆっくりと足を砂浜につけて、


【痛っ!!】


 俺が支えたから良かったけど。転びそうになったじゃん。


ん?この状態って…


海と空のコントラスト。

波の音しか聞こえない海岸。

腕の中にいるのは…彼女。


この時間軸の間だけの約束…

帰ったら普通の…


そんなこと割り切れるのか?

解ってるんだよ、約束なんだよ。


だけど、好きになってる?そうだよな、俺。

腕の中の彼女…


苦しいよ。るいさん。

何でこの時間軸だけなんだよ。


【裕二…大丈夫だから。ありがとう】


まだ離したくない。


【裕二、あのさ…私達は…】


【黙って。もう少しこのままで…】



 るいさんを抱きしめたこの時間こそ、止まれ!!止まってくれ。



はるか先から声が聞こえるが、そんなはずは?



【裕二、声聞こえない?】


【うん。確かに聞こえたような?】



るいさんを抱きしめた状態では…歩けない。


仕方なくそっと座らせて、


【見てくる。ちょっと待ってて】


【気をつけて】


るいさん、強いけど、捻挫してるから。


何かあっても俺が守らないと。絶対に。



間違いなく人影が見える。近づいてくる。


 ドキドキ…ドキドキ…とりあえず拾ったこの木を武器に。



誰だ?ツアーの人ならいいけど。


 るいさん可愛いから心配だ。間違っても近づかさせる訳にはいかない。



 まずは、膝を狙うか。動きを封じるのが確実だ。その後は出方次第だ。



【おーい、そこに誰かいるよな?】


あれ?聞いた声…



【近づくな!!そこで止まれ!!】


………返事がない………


やはり危険か?


暫くして声が、


【俺は怪しい者じゃ、人を探してる】


怪しいやつほどそう言うものだ。


姿を見たいが、そうなるとこちらも見つかる。


【聞いた声だが、名を名乗れ!!】


 言ったはいいが、このセリフは、時代劇っぽい。慌てずにもっと考えれば良かった。


【あれ?その声…裕二くんか?】


【何で俺のこと…ん?誰だ?】


【俺だよ!!はると】


 マジ?はるとさん?ツアーのインストラクター?何で?


慌てて出て行った俺は、はるとさんと対面。


【なんで、裕二くん?ここに?】


【はるとさんこそ、3年前からインストラクターしてたんですか?】


はるとさんは、ほっとして、座って、


【違うよ。俺はるいさんを探しに…あっ、そうか。ごめんな。急にいなくなって。俺、研究所で働いていたことあって。それで、さきさんに…研究所の所長なんだけどね。お願いして、るいさんを探しに。この時間にいると解ってさ。こんなこと言ってもチンプンカンプンだよな。詳しく言うと…】


【はるとさん、全て知ってます。何もかも。それよりも、るいさんのとこに戻りましょう】


【えっ?知ってる?じゃ君は?】


【3年後の俺です。とにかく戻りましょう。るいさん捻挫してるんです】


【るいさん!!良かった。無事だったんだ。心配かけやがって】














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