夕焼け世界

@arahoni108

夕焼け世界

転がり彷徨う球形少女が迷い込んだ世界は夕焼けでした


西の地平線の上

鎔鉄色の太陽が世界を赤く染めていました


赤い光を浴びる少女の背後に伸びる長い長い影

赤い空を引き連れて黒い地平線に没することなく北へと動いていく太陽

東に伸びていた影は少しずつ少しずつ南へと動いていきました


この世界の太陽は地平線すれすれの高度を保ったまま

一日をかけてぐるりの世界の淵を一周します

つまり太陽が侵す空の赤は

朝焼けであり 昼焼けであり 夕焼けであり 夜焼けでありました


――お気をつけて


不意にかけられた声に少女が辺りを窺うと

幾つもの影が彼女の影と並行して伸びていました

二本足 四本足 或いは足の無い

丸いの 四角いの ぶよぶよしたの 尖ったの

けれどどの影にもその根元に本体である実体は存在していませんでした

ただ影だけが茜の世界に長く伸びていました


――太陽の“赤”が侵すのは空ばかりではありません


この世界に長く留まったものは

斜陽の赤い光にその存在を灼き消されてしまうのだと声が告げます

そして影だけが残るのだと


そして此処にいる影達の殆どは それを承知でこの世界に留まったのだと


――あの“赤”に魅入られてしまいましたから……


影が微かに揺れます

笑ったのかもしれません


その後も 少女はその場に留まり

太陽が一周し西の空に戻るまで眺め続けました

影は長く伸びています

そしてその起点には 少女の躰が焼き消されることはなく存在していました

けれど……


――なんて美しい……


少女の丸い躰は 太陽の色を写し取ったかのように赤く染まっていました

鎔鉄の赤坩堝の中の赤流れる溶岩の赤

赤く 紅く 緋く

まるで太陽のように

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