青い空を恋い焦がれた一羽の鳥のゆめまぼろし

@arahoni108

青い空を恋い焦がれた一羽の鳥のゆめまぼろし

西の地平線から噴き昇る炎の柱は

ときには人の形に

またあるときには鳥の形にも見えるのでした


柱はその炎の色で空を朱く染め

世界を赤で侵します


或る老女は語ります

――あれは成れの果て

――昔はまんまるいお陽様だったんだよ

――その頃は空も青かったものさ

それを覚えているものは

もう数えるほども残っていないのですが





空を一羽の小さな鳥が飛んでいます

空は西の赤から東の黒へとグラデーションを成し

青はどこにもありません

赤に侵された青の無い世界の空で

鳥は青い空を恋い焦がれるのでした


鳥は青い空を知りませんでした

鳥は青を知りませんでした

鳥がそれを知ることはこの先もないのですが





その日

空の赤は一層と濃くなりましたが

朱が緋になったと感じることができたのは青を覚えているものだけでした


老女は語ります

――まるであの日のようだねえ

――こんな日は外を出歩くものじゃないよ

――赤に躰を灼かれてしまうからねえ





鳥は東に向かって羽ばたきます


西の炎から逃げるように

西の空の赤から逃げるように

東の黒い空の先

青い空を夢想して


けれど小さな鳥のこと

どれだけ飛んでも空は赤く

先の黒には少しも近づきません


ひたすら東へと飛ぶ小さな鳥

赤に躰が灼かれているのにも気付かずに





老女は語ります

――私も成れの果て

――あの日赤に灼かれてしまってね

――ご覧の通り影しか残っていないのよ





もはや空に鳥の姿はありません

時折地面に落ちる黒い影だけが

鳥の存在を赤い世界に刻み付けるかのようでした


けれど

それさえも

ゆめまぼろしのように

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青い空を恋い焦がれた一羽の鳥のゆめまぼろし @arahoni108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る