【実話】友人が失踪した話

不労つぴ

後になって勇次郎から聞いた話

「なるほど、大体の話は分かりました。……すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます」


 そう言って、昭彦あきひこは席を後にした。


「昭彦が失礼なことを言ってすみません、先生」


「いや、いいんだ。彼の言うことにも一理あるからね」


 俺の言葉に対し、先生はフフッと笑う。


「なぁ、勇次郎ゆうじろうくん。君のお友達――アキヒコくんといったかな。彼は実に聡明な青年だ。きっと頭も良いんだろう」


 先生はコーヒーを静かに飲みながら言う。

 確かに昭彦は高校時代から頭が良かった。そして、今でも専門学校のクラスでは、トップ10に入るくらいには成績優秀だ。


「だけど……」


 先生はコーヒーカップをテーブルに置いてから、静かに言った。



 俺には意味がわからなかった。だって、先程昭彦のことを頭が良いと評したのに、一転して頭が悪いなどと言い出すのだから。

 先生の意図が分からず、俺は聞き返す。


「一体どういう意味でしょうか?」


「君の友だちを悪く言うつもりはないんだけどね。勘違いしないでほしいんだが、彼は、きっと知性的な面では頭が良いんだろう。私も話してみて、それはよく分かった。だけど、私が言っているのはそういうことじゃないんだ」


 先生は、カップに残っていたコーヒーをゆっくりと飲み干す。


「彼――アキヒコくんはきっと、近い将来取り返しのつかない大きな過ちを犯す。私にはそんな気がしてならないんだ」


 俺には先生の言っている意味が分からなかった。


 けれど、その意味を理解するときが来たとき――俺は先生の言葉の真意を知ることになるなんて、このときは思いもしなかった。

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