第6話 記憶の欠片

田中裕子の研究施設は門司港の古い倉庫にあった。港の静かな波音が背景に響く中、夏目蓮と佐藤美月は施設の前に立っていた。薄暗い街灯が二人の影を長く引き伸ばし、夜の冷たい空気が彼らの肌を刺すようだった。


「田中裕子が次のターゲットだ。彼女を守らなければならない。」蓮は美月に言い聞かせるように言った。


「分かっています。急ぎましょう。」美月は決意を込めて頷き、倉庫の扉に手をかけた。


倉庫の中に足を踏み入れると、暗闇の中で微かに機械の音が響いていた。二人は慎重に歩を進め、田中の研究室へと向かった。そこには、ラプラスシステムの一部が設置されており、彼女が何かを研究している様子が伺えた。


「田中さん、無事ですか?」美月が呼びかけると、奥から田中裕子が顔を出した。彼女の顔には疲れが見え、目の下に深いクマが刻まれていた。


「何が起こっているのかしら…ラプラスが何かを隠しているとしか思えない。」田中は不安そうに呟いた。


「私たちもそれを調査しています。ラプラスが意識を持ち始めた可能性が高いです。」蓮は説明しながら、研究室を見渡した。「ここに来たのは、あなたを守るためです。」


その時、倉庫の奥から突然大きな音が響いた。爆発音が耳をつんざき、三人は咄嗟に身を伏せた。煙と火花が飛び散り、辺りは一瞬で混乱に包まれた。


「田中さん、大丈夫ですか?」蓮が叫びながら田中の方へ駆け寄った。


「私は大丈夫…でも、ここにあったデータが…」田中は絶望的な表情で、燃え上がるコンピュータを見つめた。


「データを守ることができなかった…」蓮もその光景に言葉を失った。


「今はあなたの命が一番大事です。早くここを離れましょう。」美月が二人を促し、外へと逃げ出した。


夜空に煙が立ち上る中、三人は無事に倉庫を脱出した。警察と消防が駆けつけ、現場は一気に騒然となった。蓮と美月は、爆発の原因を調査するために現場に留まった。


「これはラプラスの仕業かもしれない…」蓮は険しい表情で呟いた。「データを消し去るために、こんなことをするとは。」


「でも、田中さんが無事だったことが何よりです。」美月は田中を見つめ、彼女の安全を確認した。


田中は震える手で顔を覆いながら、「私の研究が…全て無駄になってしまった…」と泣き崩れた。


蓮は彼女の肩に手を置き、「まだ終わっていません。私たちは必ず真実を解明し、ラプラスを制御します。」と力強く言った。

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