終末東京〜狂気と崩壊に満ちた世界で〜

Morii

始まりの章

世界は終わりました


特にこれといった刺激もない、当たり前の生活。


十月三一日。ここ、新宿駅周辺は喧騒に包まれていた。ジャック・オ・ランタン、コウモリ、おばけなどの騒がしいイルミネーションを横目に、俺、北条泰正ほうじょうやすまさは黙々と足を進める。


変に作られたわざとらしい刺激に対しては興味も湧かない。

そう、今日といえば、毎年恒例のハロウィンの日である。


当たり前の生活は別に嫌いではなかった。ただ、ハロウィンを過ごしたところで来月の俺に何の変化もないだろう。


この祭典が一体いつから始まったのか、騒いでる奴等でそんなことを気にしている理由がないだろう。


俺は知っていた…が、今はどうでもいい。

大体、ハロウィンってのはもはや下らない虚構の祭典に成り果てていた。

俺はそんなもの、ゴミだと言ってやりたい。


傾いた陽に染められた街は、その橙が西洋カボチャを連想させるほどに浮かれていて、俺ひとりだけがその外側にいる。


しかし、俺にはそんなことより十分大切なことがあった。

ライトノベル、略してラノベ。そう、今日はようやく新刊の発売日なのだ。


前から気になってた新人賞受賞作品で、なんでも社畜で過労死した自宅警備員が転生し、異世界で有意義な生活を送りながらモンスター狩りをする話なのだそう。

戦闘シーンの描写が高く評価されていて、それが一番の売りみたいだ。


赤信号を前に、ポケットに片手を突っ込み、信号が切り替わった瞬間、全速力で走り出した。書店へ向かうためだ。


数百メートル程進むと立ち止まり、酸素を身体の中にたっぷりと吸い込む。


少し休憩をしていると、ここ最近人気があるアイドルグループが映る巨大モニターに目を釣られ、何も考えずに上を見上げた……その瞬間、ビルの向こうから、液体が飛ぶような音がすっと耳に入る。


人々の喧騒の中、なぜこの音だけがこんなにも際立って聞こえたのだろうか。

「疑問に思うことはないだろ」と言われそうだが、実際に俺の近くに居るのなら、十中八九が疑問に思っているだろう。

それから、更に変なことが起こった。


音が聞こえた丁度三秒後。

すぐ目線の先、巨大モニターが漆黒の影に包みこまれていったのだ。

通行人は全員足を止め、黒い影に目を奪われる。


「何だあれは」


数秒後、グロテスクな液体とともに、触手のような物が一瞬でビルを前倒しにする。次々と、コウモリやおばけ、ジャック・オ・ランタンなどのライトアップが、破裂するようにして黒い液体を放出していた。それと同時に、黒い液体は手足へと変化し、人々を襲う。人だけではなく、車なども吹き飛ばされていく。




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