第14話 とうとう口をきいてくれなくなった王太子さま


 王太子マイケルは、とうとう私と口をきいてくれなくなった。


 噂によると、彼は終始ぼーっとしていたり、急に悲鳴のような声を上げて真っ赤になっていたりと、大変なことになっているらしい。

 ご両親である国王夫妻が休暇を取らせて、今の彼は久しぶりの長期休暇中なのだとか。


「ヴィヴィ、やりすぎだよ。マイケル兄さんが兄さんじゃなくなってる」

「私のせいとは限らないわ?」

「あれだけ兄さんをもてあそんでおいて、よく言うね」


 私の案内役代理に就任したのは、もちろん第三王子メルヒオールである。

 第二王子のミゲルも候補に挙がったけれども、丁重に辞退されてしまったのだ。


 マグネリア国王と王妃二人は、様子のおかしい第一王子と、かたくなに私と接触したがらない第二王子に思うところがあるのか、私を見て複雑な表情を浮かべていた。


「ヴィヴィちゃん。あんまりうちの子達をいじめないであげてね」

「はい」

「「……」」


 私が素直に頷くと、悶えるような顔をした第一王妃ナサリエと第二王妃ニコラに、両側からぎゅっと抱きしめられた。

 二人とも、綺麗で細くて柔らかくて、アイリス姉さまに抱きしめられているみたいだった。


 メルヒオール曰く、彼女達が私に声をかけると、私が尻尾を振った子犬のような顔をするので、二人の王妃は私に夢中らしい。


 そんなつもりはないのだけれど、メロメロになってくれるのであれば、アイリス姉さまからの使命は達成できるのでなによりである。


 それはそれとして、問題はマイケルである。


「どうしようかしら」


 マイケルは今、自室か王宮の別邸の庭に居て、できるだけ近づかないようにと言われてしまったのだ。

 王太子への接触が絶たれてしまった。

 しかし、それではアイリス姉さまから託された使命を果たすことができない。

 私は王太子を落とさなければいけないのだ。

 このままだと、私が王太子を落としたのではなく、私が彼を王太子から落としてしまうことになりかねない。


(……うん? それはそれで?)


 王太子を、ことになるだろうか。

 なら、ノルマ終了で放置でいいかしら。


 私が仲裁役の王子を病気に落とし込んだとなると、故国とマグネリア王国の関係が悪くなりそうだけれども、アイリス姉さまからの命に、両国間の仲裁という項目はなかったので、最終的には問題ないだろう。


 私がそう思案していると、足元から愛らしい声が聞こえた。


「にゃぁーん」


 足元を見ると、そこにはミゲルの黒猫が居た。

 実はとっても長い名前を持っている、金色の瞳がチャーミングな、成猫の長毛種の黒猫ちゃんだ。

 またミゲルの部屋から脱走してきたらしい。

 私の足元にゴロゴロと喉を鳴らしながらすり寄って来たので、私はその場でしゃがみこんで、彼女の頭をなでる。


「そうだわ。ね、フローラちゃん。私に協力してくれる?」


 アイリス姉さまの命令を遂行するためなの。


 私がそう言うと、ミゲルズ=スーパー=キューティフル=ゴージャス=シルク=フローリア=ブラックは「にゃん!」と頷いてくれた。


 協力者が居るなら、話は早い。

 私は、お母さまの本を手に、ふふっと笑いをこぼした。


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