鏡に映るもう一人の私
古都礼奈
鏡に映るもう一人の私
日差しが暖かく感じられる春のある日、翔太は近所の古びた雑貨屋を訪れた。
彼は以前からこの店の不思議な雰囲気に興味を抱いていた。
店内に足を踏み入れると、埃っぽい空気が漂い、何とも言えない懐かしさを感じた。
店主の老婦人が優しい笑顔で迎えてくれる。
「こんにちは、何かお探しかね?」
「特に何もないんです。ただ、ちょっと見てみたくて。」
そう答えながら、翔太は店内を見回した。
古い書物や骨董品の間に、一つの鏡が目に留まった。
普通の鏡とは違い、その表面には奇妙な紋様が彫られている。
「それは古い伝説の鏡だよ」と老婦人が話し始めた。
「その鏡を覗くと、見る者の内面の姿が現れると言われているんだ。」
興味を引かれた翔太は、その鏡を手に取ってみた。
表面が冷たく、触れると奇妙な感覚が手に伝わってくる。
彼はじっとその鏡を覗き込んだ。
突然、鏡の中の自分の姿がぼやけ始め、別の人物に変わっていく。
そこには見知らぬ少女が映し出されていた。
翔太は驚いて鏡から目を離したが、何も変わっていない。
もう一度鏡を見つめると、やはりその少女がそこにいる。
「な、何だこれ……」
その瞬間、彼の体に異変が起こり始めた。
手が小さくなり、髪の毛が長くなり始める。
目の前で自分の体が少女の姿に変わっていくのを感じた。
鏡に映る少女は、自分自身だった。
「えっ、嘘だろ……」
驚愕のあまり、翔太は店を飛び出し、自宅へと駆け戻った。
しかし、彼の姿は元に戻ることはなかった。彼はそのまま女の子としての日常を送ることになった。
—
数か月後、翔太(今は翔子と名乗るようになっていた)は、ようやく新しい生活に慣れ始めていた。
友人たちにもカミングアウトし、彼女の変化を受け入れてもらった。
ある日、友人とショッピングに出かけた翔子は、ふと立ち寄った服屋で可愛らしいドレスを見つけた。
「この服、かわいいな……」
そうつぶやくと、彼女の友人が微笑んで言った。
「似合うと思うよ、試してみなよ!」
翔子はドレスを試着し、鏡の前でポーズを取ってみた。
鏡に映る自分の姿は、以前とは全く違って見えた。
彼女は新しい自分を受け入れ、笑顔で未来に向かって歩き出した。
—
翔子は、あの古びた雑貨屋で起こった出来事が運命だったと感じていた。
新しい自分としての人生を楽しみながら、彼女は日々を過ごしていた。
その鏡はもう一度、彼女の手に戻ることはなかったが、翔子の心の中にはいつもその経験が刻まれていた。
そして、彼女は思った。自分を変える力は、結局、自分の内にあるのだと。
鏡に映るもう一人の私 古都礼奈 @Kotokoto21
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