【意味怖】日常の些細な恐怖に潜む本当の恐怖!

BB ミ・ラ・イ

本文

シーン①:「見知らぬ番号からの着信」


 仕事が終わり、夜遅くに帰宅した私は、スマホを取り出し、何気なく通知を確認していました。すると、そこには見知らぬ番号からの着信がありました。普段なら気にも留めないのですが、何故か少しだけ気になっていたのです。


 というのも、その番号から掛かってきたのは、その日が初めてではありませんでした。最近になって何度か掛かってきていたのです。非通知なので同じ番号なのかは分かりませんが、女の一人暮らしなもので、「変な電話なら嫌だな」という、ちょっとした怖さがありました。


 最近の出来事といえば、会社での部署が変わったことくらいです。その際、お世話になる同僚や上司の方々と連絡先を交換しましたが、もちろん、交換した番号は全て登録をしました。絶対とは言い切れませんが、登録し忘れていたなんてことはないはずです。


 それに、最近と言っても数日前の話です。なので、新しい仕事を覚えている私に、夜遅くまで何度も仕事の電話が来るなんてないはずです。何より仕事の電話なら、会社にいる時に声をかけてくれると思います。ですが、だれ一人として「電話したのに」と声を掛けて来た人はいませんでした。


 そのため、何度かブロックをしたのですが、それでも電話は鳴り止むことはありませんでした。


 とはいえ、私は不審に思いつつも、「電話に出なければ問題ない」と思うようにして、あまり気にしないようにしていました。


 そう思っていた私ですが、気分を変えようとシャワーを浴びている間も、やっぱり頭の片隅にはその見知らぬ番号のことが引っかかっていました。


 それからシャワーを終え、リビングで一息ついていると、再びスマホが鳴り始めました。見てみると、またあの見知らぬ番号からの着信です。


 私は意を決して不安が募りながらも、恐る恐る電話に出てみることにしました。


「もしもし?」


 しかし、返事はありませんでした。耳を澄ますと、かすかに息遣いが聞こえるだけ。気味が悪くなり、すぐに私は電話を切りました。心臓がドキドキして、部屋の中が急に静まり返る。


 その後も数回にわたって同じ番号から着信がありましたが、どれもやっぱり無言だったのです。次第に恐怖心が募り、恐怖が恐怖を呼び、「あー、やっぱり出なきゃ良かった」と思った私は、その日、眠れなくなってしまいました。


 私は不安は拭えないまま。私にできるのはその番号をブロックすることだけです。警察に言っても事件性がない以上、取り合ってはくれないと思いますから。


 そんな不安が続いた数日後のこと。


 部署が変わる少し前に、「週末、ごはん行こ?」と友人から連絡がありまして、気分転換と相談を兼ねて、友人と食事をしていると、その友人が突然笑いながら言ったのです。


「ごめん、それ私だわ。最近番号変えたんだけど、ちゃんと伝えてなかったみたいだね。何度か電話したけど、出てくれなかったし、なんかブロックもされちゃってたから心配してたんだよ」そう言われました。


 私は恐怖と安堵が入り混じった感情になり、友人を見つめました。そこには、もちろん怒りなんていう感情ありませんでした。


 けれど、心の中のわだかまりは完全には、拭えませんでした。夜中に一人でいると、あの無言の電話を思い出し、再び恐怖が蘇ることがあります。


 もし、本当に誰かが私を見ていたら……


 そんな考えが頭をよぎるたび、心臓が跳ね上がります。そして、見知らぬ番号からの着信は、友人と別れた今でも掛かってきていたのです。



シーン②:「夜中の訪問者」


 深夜、自宅でリラックスしながら映画を観ていました。すると、突然玄関のチャイムが鳴り、「こんな時間にダレ?」と思いましたが、勇気を出して玄関まで行きました。


 そして、覗き穴から外を確認してみたのですが、誰もいない様子でした。心臓が高鳴り、まるでホラー映画の一場面のような状況に、思わず緊張が走ました。それでも、不安の種は消し去りたいという思いがあり、恐る恐るドアを開け確認してみることにしたのですが、やっぱり外には誰もいなかったのです。


 風のせいかもしれない……


 そう、自分に言い聞かせ、再びソファに戻ったのですが、どうしても気になって、結局、その夜はずっと警戒して過ごすことになりました。


 その後、玄関のチャイムが再び鳴ることはありませんでした。ただ、代わりに何度も廊下のほうから微かな足音が聞こえるような気がして、それはまるで誰かがそっと歩いているかのようでした。


 翌日、ゴミを出しに行った時に偶然、隣人の方に会いまして、そのことを話してみることにしたのです。


 すると、驚きの答えが返ってきました。


 なんと、その隣人も同じような体験をしたことがあったのです。ただ、それは一時の恐怖で、その方はこう言ってました。


「多分、風でチャイムが誤作動したんじゃない? ウチの所は、そうだったのよ。足音なんてアパートなんだから、してもおかしくないじゃない。偶然2つが重なったのよ」


 そう言われ、玄関のチャイムの点検を依頼することにしました。


 業者が来て、チャイムを確認してもらうと、やはり風で誤作動することがあると説明を受けました。


 単なる故障? だったのかもしれない。


 それから、その業者の方にお願いして、家の周りを調べてもらいましたが、特に異常は見つかりませんでした。


 チャイムの誤作動という問題が解決して、足音の正体も単なる自分の思い込みか、隣人さんだったのでしょう。そう思うと少しばかりですが、心の平穏が戻ってきました。


 しかし、夜中の静けさが再び訪れると、一瞬だけあの恐怖が蘇ることがあります。まるで、心の奥底に沈んでいた不安が、一瞬だけ顔を覗かせるように。



シーン③:「消えた書類」


 会社で重要なプレゼン資料を作成していた私は、ランチタイムに入る前に、その資料が入ったUSBをデスクに置いて、ランチに行きました。


 その資料というのは、翌日のプレゼンで使用するために徹夜で作成したもので、非常に重要なものでした。


 と言っても、それは私が受け持っていた他の会社とのプレゼン資料なので、他の同僚には関係なく、私と会社にだけ重要なものだったのです。


 ただ。ランチを終え、戻ってくるとそのUSBが無くなっていたのです。そのプレゼンのライバルは他社で、この会社にプレゼンを邪魔してメリットがある人はいません。もちろん、イジメも受けてません。


 急いで、デスクの周りを探しましたが、どこにもありませんでした。


 念の為、他の同僚たちにも聞いてみましたが、誰も見ていないと言われ、焦りと不安で心臓がバクバクしてました。


 締め切りが迫っている中、USBが見つからないことは一大事。そのため、上司にも相談して、探してもらうようお願いしましたが、どこにも見当たらない。時間が経つにつれ、焦りは混乱に変わり、頭の中が真っ白に。


 オフィス全体での捜索が始まり、全員が協力して探してくれて、デスクの引き出し、ファイルキャビネット、会議室、トイレまで、あらゆる場所を探しました。ですが、やっぱりどこにも見つかりませんでした。


 データ破損を恐れ、バックアップは取っていました。ですが、USBの中です。


 資料作成中は破損を恐れ、本体とUSBで管理していたのですが、完成したのでバックアップデータがある新品のUSBに、一緒に移してしまいました。


 結局、どこにも見つからず、プレゼンは資料なしでやることになりました。


 その日の夜はほとんど眠れず、翌日のプレゼンに対する不安と恐怖で胸が締め付けられるようでした。


 翌朝、プレゼンは午後からだったのですが、オフィスに到着すると、上司から私は呼び出されました。


 心臓が飛び出しそうなほど緊張しながら上司の部屋に入ると、彼は私に例のUSBを手渡し、「もしかして探していたUSBって、これかい?」と問いかけられたのです。


 私は、「はい! コレです。間違いありません」と返し、USBを受け取りました。


 朝早く来た上司が見つけてくれたようです。


 私がうっかり別の場所に置き忘れた可能性は非常に低いです。どこにあったかは分かりません。ですが、その時の私はUSBが見つかっただけで、心が救われたのは間違いありません。



シーン④:「誰かが見ている」


 休日の午後、カフェで仕事をしていた私は、背後に誰かの視線を感じまが、振り返っても誰もいませんでした。


 しかし、どうしても視線を感じ続けるため、何度も周りを確認したが、特に怪しい人影は見当たりませんでした。


 私の周りには、他の同僚と上司が座っているくらいで、同僚同士は会話を楽しみ、上司は何かの書類を確認していました。


 それでも、感じる何者かの視線。私は次第に気味が悪くなり、席を移動しようかと考えました。その時です。


 ふと、目に入ったのは上司ではなく、その後ろの壁に貼られた大きなポスターでした。


 そのポスターには、人物の顔が大きく描かれており、その目がまるでこちらを見ているかのようなポスターだったのです。ポスターの位置がちょうど私の後ろにあり、その視線を私はずっと気になっていたようです。


 ポスターの目が視線の正体だと分かり、一瞬ホッとしましたが、それでも不安は消えませんでした。視線を感じるたびに、まるで誰かが本当に見ているかのような、そんな錯覚に陥っていたのです。


 家に帰ってもその感覚は続き、部屋の中で何かが動くたびに心臓が跳ね上がるくらい、私はあのポスターに心を支配されていました。日常生活にも支障が出始め、友人や家族に相談することにしたのです。


 友人や家族に相談すると、大爆笑。「なにそれ、面白すぎでしょ」とか、「単なる気のせいだよ」と言われました。


 その言葉によって、私のメンタルは落ち込むことはなく、むしろ友人や家族に安心感を貰った感じがしました。


 それは、そうです。だって、視線を感じていたのは、ボディービルダーのポスターだったのですから。なので、少しずつ心の平穏が戻ってきました。


 その後は、あのポスターの視界から外れるように、席を考えて座るようになりました。


 なんと説明したら分かっていただけるか、正直、説明のしようもないのですが、ムキムキマッチョの目には、私にしか分からない眼力があるみたいな。あの目は、睨んでないと思うんです。けど、私には睨まれているように、感じていたんです。


 なので、それからも数日は睨まれているような視線を感じていました。けれど、更に日が経った時には、その視線は感じなくなりました。ようやく、カフェでの作業に集中できるようになったのです。


 視線を感じるという単なる錯覚が、これほどの不安と恐怖を引き起こすとは思いもしませんでした。



シーン⑤:「ストーカー」


 仕事終わりは、いつも夜道を通り帰ることになっていた私は、毎日のように誰かに襲われるのではないかという恐怖に怯えていました。


 まあ、大抵は思い違い、勘違いなどで、女性であれば誰しもが、一度は経験をしていると思います。


 例えば、曲がり道を曲がった際に、バッタリ知らない男性と出くわす状況です。偶然といえば偶然ですが、「もしかしたら待ち伏せされていたんじゃないか」と考えると怖くてしょうがないです。

 

 そんな恐怖と闘いながら私は、毎日帰ってていたのですが、その日はいつもと違いました。


 いつものように通い慣れた帰り道を歩いていると、背後からコツコツという足音が聞こえてきました。振り返るのも怖かった私は、その足音が聞こえながらも、何度か曲がり道で曲がったのですが、その足音はずっと追いかけてきていました。


 私は、恐怖から自然と早足になりまして、どうにかしてこの状況から解放されたい一心で、自分の家がバレることより、自宅に逃げたい気持ちが優先され、無我夢中で逃げ帰ることにしたのです。


 その後、どうにか家路に就くことができた私は、すぐに玄関の鍵を閉め、夕食も風呂も電気を点けることすらせずに眠りにつきました。


 翌朝、まだ昨夜のことを忘れることはできなかったのですが、その日も仕事でしたし、何より朝だったことで私は、普通に会社へ行くことにしたのです。


 そして、会社の同僚に昨夜の話をしました。ですが、「気のせいじゃないの?」と信じてはもらえず、少し心配してくれるくらいでした。


 ただ、上司だけは違いました。熱心に話を聞いてくれまして、帰りも送ってくれることになったのです。


 それから、上司は「万が一があると心配だから、一時的に合鍵も預かっておこうか?」と言われました。その上司というのは、男性です。もちろん、抵抗はありました。


 でも、信用もありますし、誰よりも私の話を聞いてくださり、何よりも私が怖かったのは、やっぱり一人暮らしということです。そんな不安に駆られて、一週間だけ合鍵を渡すことにしました。


 それで、そんなことがあってから数日が経ちまして、上司と歩いていたことを見ていたのかは分かりませんが、それ以降、私の後ろをついてくる気配は感じなくなったのです。


 なので、早めに合鍵を返してもらおうとしましたが、事情が事情で当分の間は、返してもらうことが出来ませんでした。



シーン⑥:「開かないドア」


 夜、仕事を終えて帰宅して、お風呂に入った後、リビングに戻ろうとしました。


 ただ、いつも通りドアノブを回したのですが、ドアがどうしても開かなかったのです。鍵がかかっているわけでもないのに、押しても引いてもびくともしませんでした。


 まるで誰かがドアの向こう側で、押さえているかのような感じがしましたが、それは私の勘違いだと思いました。


 だって、私は一人暮らしですよ。玄関の鍵も閉めました。


 それから力を込めて、何度も試したが結果は同じでした。ただ、ふと思ったのです。恐怖が増す中で、冷静に考えてみると、ドアノブが緩んでいることに気づきました。実際に確認すると、金具が壊れていて、回すと空回りしていただけだったんです。


 賃貸とはいえ、そこまで古い建物ではなかったのですが、翌日、修理を依頼することにしました。業者が来て、ドアノブを確認してもらうと、やはり故障でした。


 修理が終わり、ドアノブが正常に機能するようになっても、その一瞬の恐怖は忘れられなかったのです。夜中に一人でいると、またドアが開かなくなるのではないかと、不安がよぎることがあります。


     ◆


 数日後、上司は警察に捕まりました。そして、その被害者は私です。


 警察から詳しいことは教えてもらえませんでしたが、これら一連の出来事は全て上司の仕業で、目的は「嫌がらせ」だったと聞かされました。でも、イジメとか、恨みを買ったとかではなく、ただ私の困っている姿を楽しむのが目的だったようです。

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