#5
「……午後5時となりました。中庭にて、軽音部によるライブが開催されます……繰り返します、中庭にて、軽音部によるライブが開催されます……」
全校放送で放送部の鶯嬢が大々的に宣伝すると、まばらだった人並みがわらわらと中庭に集結する。
その人々を見ているだけで、僕の心臓は耳のすぐ隣で大騒ぎし出す。
「あははっ!順番3番目なのに、卑屈ニキの顔面が硬直してるー」
今だけはケタケタと笑う柳田君を突っ込むほどの余裕が無い僕を庇うように「お前はもう少し緊張しろよ」と溜め息をついた昴は、僕の肩を優しく叩く。
「もう少し肩の力抜いて……こんなんでどーするんだよ、ボーカル?」
僕を安心させようと口の端を上げた昴は、わざとらしく変顔をして見せる。
「ぶ……ッ!ひっでぇ顔」
あまりに迷いの無い変顔に思わず吹き出した僕は、昴に「ありがとう」と返して、徐ろにポケットからのど飴を取り出した。
「まだ持ってたんですか、ソレ」
意外そうに目を開いた柳田君は、「溶けますよー」と言いながらも嬉しそうに僕を見つめる。
「えっ……ソレ、柳田にもらったの?俺の分は?」
「無いでーす」
「何でだよ?!」
口を尖らせて「不平等だぁー」と僕に文句を垂れる昴は、無言の先輩を横目で見てから気まずそうに僕にアイコンタクトした。
「いや、先輩は僕があげたよ」
「ウッソ……!マジで俺だけじゃん……」
悲しそうに眉を下げた昴が怒られた犬がヘナヘナと耳を垂らすと、その様子がどこかの狐神に被って見えた僕は、緩みかけた口元を慌てて押さえる。
しかしそんな事を知る由もない柳田君は、半ば呆れながら落ち込んだ昴を見かねて自分のポケットからのど飴を取り出して渡す。
「のど飴ごときでそんな顔しないで下さい……あげますから」
「いいの?!」
キラキラとした瞳で見つめ返す昴には、嬉しそうに大きく振る尻尾の残像が見えた。
「……おい、もうそろそろ1番目が終わるぞ」
僕らを静かに見守っていた先輩は、スポットライトが眩しいステージの上で歓声を浴びるグループを顎で示すと、僕らに向き直る。
「「「はいッ!」」」
ビックリするほど綺麗に重なった声を聞いて満足そうに笑った先輩は、静かに拳を突き出した。
それに倣って僕らも次々と先輩の拳に拳を当てると、真剣な表情でメンバーの顔を眺める。
「……俺達、輝けるよな?」
挑発的な先輩の視線に頬が緩みながらも、僕は先輩の眼光に負けないぐらいの力を目に込めて睨み返す。
「勿論!」
「うっす!」
「当たり前じゃないですかー!」
爛々と輝くメンバーの視線が合わさった時、2番手のメンバーが演奏を始めた。
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