#3

 ステージは低めの階段を2つ上がった舞台の仕様になっており、まるっきり去年と同じ組み立てになっている。


 ステージ上には、ギター・ベース・キーボード用に置かれた楽器の音を増幅させるアンプ、それを拾うために向けられたマイクとスピーカーが観客用と演奏者用にいくつか。


 そしてステージのすぐ横には、マイク音のバランスを調整したり、エフェクトをかけるミキサーをはじめとする音響ブースが設けられ、オーナーが『ツテ』と言っていた人達が他のグループの調整をしている。


 去年も見たとはいえ、いざステージの上に用意された本格的なセットに目を輝かせた僕は、ふとさっきオーナーさんが言っていた事を思い出す。


 ──『実は今日、僕のツテでレーベルの子がお忍びで来るから、君達のグループの実力を見せつけて欲しいなぁ!』


 ふふふっと静かにほくそ笑んだ僕を馬鹿にしたように笑う柳田君は、「間に受け過ぎですよー」と揶揄う。


「だって、実現したら嬉しいじゃん」

「そうですけど……僕の経験からいくと、趣味と仕事は別モノでーす」

「それは……」


 ──『プロはそんな甘くない……です』


 苦笑いした柳田君の言葉に、岡部先輩の切ない表情が被る。


 すでにドラムの調整に入っている先輩のドラムにはマイクが幾つも並べられ、真剣な表情で調整していた。


「ええっと、『Flash Back』のメンバーさーん、調整入りたいんで音もらっても良いですか?」


 ミキサーの前に座った愛想の良い男性に声を掛けられ、慌ててベースを手に取ってアンプに繋ぐ。


 いつもチューニングする時みたいに弦を撫でながら音を確認すると、続いて各々がバランスを意識しながら意見を出し合う。


 そんな中で僕は、『プロ』と『趣味』の違いをぼんやりと考えていた。


 今までは単純に、好きな事が生業になるなら一石二鳥だと思ってた。でも……先輩も柳田君も、きっと『それは違う』と考えている。


 あくまで、『趣味』だから楽しいのだ、と。


 ──難しいなぁ……。


「あのー……もう少しベースの音とテンション、上げてもらえますー?」


 真顔の柳田君が本気とも冗談とも取れない声色でそう言うと、ステージにいた僕以外の全員がドワッと笑う。


 肝心の僕はと言えば、何が起きたか分からず反射的に「は、はいっ……すみません」と敬語で謝り、またステージが沸く。


 恥ずかしさで顔が熱くなった僕はほぼ無意識で昴を見ると、昴は心配そうな目のまま含みのある笑顔を僕に向けた。

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