#4

 昴の真顔どアップに驚き、目を瞬きながら体をのけ反った僕は「いや、やった事ないし」と、突然の事に声を上擦らせた。


「コーラスやってただろ?」

「それは……」


 しかし昴は僕を逃さないとでもいう様に素早く切り返すと、「曲の感情は作った奴が1番わかるだろーが」と畳み掛ける。


「でも……」

「いい加減逃げんなって……お前が産み落とした表現は、お前が責任持って清濁を飲み干せよ」


 珍しく真剣に兄貴らしい言葉を吐いた昴は、呆気に取られた僕を一瞥してから鞄を置き、「少しは信頼しろって」と呟く。


「螢の才能なんて、俺含めてここのメンバー保証してやる……。お前が俺のことどう思ってるか知らないけどさ、矢面に立って苦労することもあるし、目立った分だけしっぺ返しされることだっていくらでもある。……それでもさ、こうやって曲を作って、人の前に立てるのは、後ろで支えてくれるメンバーがいるからだろ?」

「……」

「螢が自分を卑下するのは、お前を信頼してくれる全員を否定することになるんだぞ?……俺らの音楽が1番カッケーだろって、作ったお前が自慢しなくてどーするんだよ!」


 僕は答えられなかった。


 いつも明るくて、子供の頃から愛想が良くて、なんでもできる昴は人気者。


 そんな昴が周りの重い期待を跳ね除けて、歯を食いしばってでも前を向いていたのは、自分と自分を信じてくれる皆の為だった。


 ──なんでそんな事に気付かなかったんだろう?


 昴は勝手に光るんじゃない。

 星の命を燃やして輝くんだ。


 昔の僕なら、きっと暑苦しく思って逃げたかもしれない。有耶無耶にしてはぐらかして、愛想笑いでフェードアウト……なんて何度しただろう?


 でも今は、今なら。

 「昴の補欠」ではなく、「螢」として輝けるなら。


 ──僕も輝きたいッ!


 僕が考えを巡らせて黙っている間も、昴はじっと待っていた。その空気が妙に温かくて、僕は静かに口を開く。


「……歌うよ」


 今度は僕が、重い期待に立ち向かう番だ。


「そうこなくっちゃ!」


 へへへっと自慢げに笑う昴と、昴の後ろで微笑む岡部先輩に安心感を覚える。


「もしも変だったら、ちゃんとサポートしてよ」

「おう、任せとけブラザー!」


 おちゃらけながら親指と人差し指を立てて顎に当てた昴は決め顔で僕を見ると、いつの間にかやってきた柳田君が冷ややかな目で「うっわ、何やってるんですかー?」と小馬鹿にする様に声を掛ける。


「うるせぇ!今、やっと螢を納得させたんだぞ」

「納得?」

「ボーカルを螢がするって話」


 胸を張りながら決め顔をし直した昴に、柳田君は目を細めて「へぇ」と珍しそうに反応する。


「明日は雹か霰、はたまた雪でも降るんですかー?」


 相変わらずの軽口に鼻で溜め息を吐いた僕は、口に手を当てて僕を横目で見ながら笑う彼に、「余計なお世話だ」と笑って反論した。

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