#2

「柳田笑い過ぎ……てか、何の用だよ?」


 過呼吸にも近い引き笑いで顔を真っ赤にした柳田君に呆れた昴は、話を変えるように切り出した。


「ひゃひゃひゃ……あー……そうそう、文化祭の招待券使わないからあげようと思って」

「は?……家族とかはいいのかよ」

「母はフルで仕事だし、父は……どうせゴミになるなら、使う人にあげた方がいいじゃないですかー」


 右手をヒラヒラと振った柳田君は「じゃっ!」と引き攣った笑顔で招待券を差し出す。


「それは……柳田君が使いなよ」


 呟くように僕の口から漏れたのは、心の中で煙のようにモヤモヤと広がって本心だった。


「ご両親に何があったか知らないけど、これはチャンスだよ……柳田君のお父さんに、『父親がいなくてもこんなに立派に育ったんだぞ』って見せつけるチャンス」

「……チャンス……」


 俯いて招待券を眺めた彼は覚悟を決めたようにそれを握り締めると、僕の目を見据えた。


「あの頑固親父をギャフンと言わせてやります!」


 柳田君の瞳に宿った覚悟は、今まで見てきた表情の中で一番凛々しく、なぜか焚き付けた僕まで発破を掛けられた気がする。


「ライブ、一緒に成功させようね」


 考えるよりも先に僕の口から滑り出たその言葉に、柳田君は力強く「はいっ!!」と笑う。


 人の熱は伝染する。

 僕の言葉に火が付いた柳田君のように。

 その彼に感化された僕のように。


 たった小さな種火でも、人の心に明かりを灯す事ができたなら──。


「よぉし!それでこそ俺ら『Flash Back』だろ!!」


 雄叫びにも近い声で叫んだ昴は、僕と柳田君の肩を掴んで引き寄せ、満足そうに笑みを溢す。


「だな」

「そーですね」


 その豪快さに吹き出すようにまた笑った僕らは、何となく無敵な気がした。


 誰に何を言われようと、またこの先何があろうとも──。


「おーい、もうすぐ授業だぞー!」


 遠くから聞こえた声の主は、僕のクラスの担任。彼は教室から顔だけ出してやれやれといった表情で眉を顰めて僕らを見ている。


「はーい、今戻ります!」


 いつもならビクついていたであろう僕は、明るく声を返すと軽快なステップで教室へと向かう。


「じゃ、また放課後!」

「卑屈ニキ頑張れー」


 後ろから掛けられた声に顔だけ振り返えると、笑顔の2人が僕に向かってブンブンと手を振っていた。

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