#4
ビルの向こう側に太陽が傾いた頃、杜を無事に出た俺と螢は近くのコンビニに寄った。
可愛げのない狐神も、何だかんだと言いながら杜の端まで見送りしてくれたのを見ると、少し憎めないのも事実だ。
「ほれ」
コンビニでサイダーを2本買って、1本を螢に差し出す。
「えっ……あっ、僕が呼んだのにとんでもない……大丈夫です」
「ぬるいサイダーを家で飲む気はない」
申し訳なしそうに遠慮する螢は手を振るが、俺は半ば強引にペットボトルを押し付けた。
「す、すみません……」
律儀に礼を述べた螢は静かにキャップを捻って開けると、シューッと音を立てた炭酸が泡立つ。
蝉の声だけが響く、静かな夕焼けだった。
俺も螢に続いてサイダーで喉を潤すと、炭酸特有の刺激が強く鼻に抜ける。
「なぁ、螢。……白の事って、昴は知ってるのか?」
「……いえ、まだ話してません」
「そうか」
優しい風が俺達を包む様に吹き抜けると、夏特有の暑さに汗が滴った。
「……お前が思ってるほど、昴は器用じゃ無いぞ」
「えっ?」
「あいつもちゃんと努力して、苦しんで、時には傷付いてる。……だから、あんまり自分だけって卑下すんな」
──『お前がどんだけ他人になろうとしたって、お前が岡部 浩也であることには変わりないし、逆にどんな風になっても俺たちのメンバーに変わりないだろ?』
脳裏に浮かんだ林先輩が微笑む。
きっとこの言葉は、俺だけのものじゃ無い。
「……これは先輩の受け売りだが…… お前がどんだけ他人になろうとしたって、お前が新井 螢であることには変わりないし、逆にどんな風になっても俺たちのメンバーに変わりないだろ?」
「……そう……ですね」
潤んだ瞳で俺を見据えた螢は、ふっと微笑んでサイダーを飲み干す。
「僕もいつか、先輩みたいになれますか?」
「もう超えてるだろ」
謙遜でも何も無い。
本心から出たその言葉に、俺は驚きつつも顔を綻ばせる。
「曲、期待してる。……良いの作れよ、白の為にも、メンバーの為にも」
空のペットボトルを捨てながら螢と目を合わせる事なく履き捨てる様に言ったのは、少しの恥ずかしさと引退が近付いた寂しさのせいに他ならなかった。
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