26 花のアーチ
『ウィスパーの森』の中に入る。
予想通り、木が多くなって暫らくは『トランクワル平原』のままで、品質★3の採取エリアを見つけた。
★2.9の採取エリアは見つからなかったんだけれど、多分見落としていたんだと思う。
明るかった時は採取エリアを探すのに集中できたけど、今はモンスターが急に出てきたら……と思ってしまう。
ガサガサ……
「っ!」
後ろから音がして体がビクリとはねる。
振り返るとウサギが草むらから飛び出して、そのまま通り過ぎて行っただけだった。
……こういうのが驚くから嫌なんだよねぇ……。
実際には急に襲ってこないと頭では分かっている。
でも、そもそも安全な街で急に声を掛けられるだけでもビックリしてしまうんだから、危険なフィールドならもっと緊張してしまう。
もしかしたらこのゲームが凄くリアルだから余計に怖いと思ってしまうのかもしれない。
気を取り直して『ウィスパーの森』を見渡す。
採取エリアでない場所にある木の根元には二種類のキノコがある。
両方とも茶色と白の斑点柄キノコだ。
中央が茶色のものと白色のものがあるから、どちらかが擬態しているモンスターなんだろう。
まぁどっちがモンスターか分からないから、両方もスルーしておく。
それにしても採取エリアの外でも採取できるんだ。
流石に両方とも擬態しているモンスターではないだろうし。
そう思って前に進む。
『ウィスパーの森』に入ってから【モノーン】の街は見えなくなった。
距離が離れて見えなくなったというより、木が視界を遮るから見えなくなったというのが正しい。
だから次の目印にしているのは『ウィスパーの森』に生えている巨大な樹だ。
この大樹は周りの木より飛びぬけて高いからどこからでも見えそうなんだよね。
だから迷わずに進めそう。
すっかり忘れていたけれど『マップ』があるからホントウの意味では迷わないんだけれど、それでもどこに行った~とかまた同じところ来ちゃった~とかを防ぐためだ。
森って迷いやすいって言うし。
それにわざわざ大樹があるんだから、何か珍しい物があるんじゃないかって期待感もある。
そういう訳で大樹の根元に到着したんだけれど。
……特に何もない。
近くで見ると大樹は本当に立派だし、大樹の周囲には何も生えていなくて草原みたいになっているし、その草原には所々不思議な積み方をした大きめの石もあるんだけれど。
ホントウ何もない。
うーん。
採取エリアも無さそうだしなぁ。
自然にできてそうな花のアーチを見つけた時は、おお!って思ったんだけれどなぁ。
ちなみにこの花のアーチ〈目利き〉を使ってみたんだけれど、何1つ分からなかった。
採取エリアの品質を確認するために〈目利き〉を使い続けていたからレベルも結構上がっていたのに、全部『―失敗―』は悲しすぎる。
というか名前すら分からなかったって……。
モンスターに使った時は『発動しませんでした』ってアナウンスだったから、純粋にレベルが不足していたんだろうな。
しかももう1度使おうとしたら『連続で使用できません』って言われちゃったし。
もしかしたら他の所を探している間に、もう1度使えるようになったかもしれないけれど……なんだかやる気が無くなっちゃった。
SPも増えたとは言え消費SP3はまだまだ無駄遣いできない量だし。
もっとレベルが上がったらってことで、とりあえず保留。
……ちらっと採取エリア以外でも採取できるなら、採っちゃおうかと頭に過ぎったけれど止めておく。
自然にできてるアーチなんて現実でも珍しいし、勿体ない。
このままの方が絶対綺麗だ。
写真とか撮れるなら絶対撮っていた。
画材とかもないしなぁ。
メモはあるけれどアレ書きにくいから、デッサンなんて絶対無理。
あーあ、せめてこの花の名前だけでも知りたかったなぁ。
この綺麗な白い花、BOOオリジナルのはず。
名前が分かれば種を買って私も育てるのに。
それとも道具屋の人に聞いてみる?
『ウィスパーの森』の大樹の近くにある白い花の種はありますかって……。
……。
いや、絶対無理。
だって名前すらわかってない花なんだよ。
説明があやふやすぎる。
実際にお店の人が見たことあったらいいけれど、この説明じゃ何も分からないでしょ。
そもそも園芸に必要な物は扱っていたけれど、あの店道具屋だし。
そんなに花の種置いていないと思う。
……仕方ない、今は諦めよう。
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