スローペース・スローライフ~園芸とクラフトのためのVRMMO~
鴨鍋 葱
第1章 βテスト
00 新生活と私
学校の廊下を歩いていると花瓶が目に入る。
来客用の玄関であるここには季節によって色々な花が飾られているようで、受験で来た時に見た花とは別の花が生けられていた。
「ん、この花……。」
「おはよう、どうかしましたか?」
「おはようございます。先生。この花、華道部が生けたのでしょうか?」
私が生け花の近くに置かれた『作品名:ようこそ(華道部2年生)』のカードに気が付いた時、偶然近くを通った先生が話しかけてきた。
せっかくなので疑問に思ったことを聞いてみよう。
「そうですよ。ここの花は華道部にずっと生けてもらっているんです。……あなたは新入生かしら?」
「はい、2組の
「そう御園さん。あなたは花が好きなの?」
「ええ、まぁ。」
「興味があるなら、華道部の部室は西棟の1階にあるから覗いてみると良いわ。確か週に2回の活動だったはずだけど、部活紹介のプリントがもうすぐ配られるはずだから、詳しいことはプリントか顧問の先生に聞いてみてくださいね。」
「あの、ちなみに園芸部は……?」
「園芸のほう好きなの?ごめんなさい園芸部や似た部活はないんです。」
「……そうですか、ありがとうございます。」
私はどちらかというと花を育てる方に興味があったのだけれども、残念なことに園芸部はないみたい。
家もマンションでガーデニングする場所もないし、今までも園芸部が無い学園だったから園芸をしたことがない。
歴史ある高校で華道部があるのなら園芸部やガーデニング部があってもおかしくないと思ったのだけど、残念。
まぁ無ければ無いで別にいいかなって思える程度の興味だもの。
高校を選ぶときに部活のことは調べなかったから、絶対にしたいってわけでもないので。
それより私は昨日緊張でクラスメイトとあまり話せなかったから、友達作りについて考えた方がいいかも。
あっ、入りたい部活の話題とかいいかも。
それで話が合った子と部活の見学一緒にいくとか青春っぽいよね。
******
「……はぁ~。」
帰宅後、学校の事を思い出して思わず溜息を吐く。
昨日より会話はできたのだけど、何というかこう。違う。
浮いてる、みたいな。
「友達ってどう作ったっけ?」
私は幼稚園から中学まで一貫の学園に通っていた。
小学校や中学に上がる時、外部受験の子が入ってきても問題なく友達になれたはずなんだけど。
ううん、その時は同じ内部進学の友達もいたから、気づかない間にフォローされていたのかな。
全員知らない人の中で友達を作るのがこんなに大変だったなんて。
この春、お父さんの転勤で引っ越しをすることになった。
本当は高校も内部進学する予定だったんだけど、転勤先の高校へ外部受験することになった。
学園の友達は心配してくれて、大丈夫だよ!って返したのに、こんなに早く躓くことになるなんて……。
これでもある程度似た雰囲気の高校を選んだつもりだったんだけどなぁ。
――コンコンコン
「紗恵、お夕飯にしよう。」
ノックの音がして、お母さんが呼ぶ。
今日で入学二日目、焦っても仕方ない。
そう自分を納得させて私はリビングへ行くことにした。
「学校はどうだ?」
「まあまあかな。」
「そうか、何かあったら父さんや母さんに相談するんだぞ。」
「もう、アナタ。まだ授業も始まってないでしょう。」
夕食中、お父さんが話しかけてくる。
私が誤魔化したことに気が付いたのか、お母さんがフォローをしてくれた。
お父さんは通い慣れた高校まである学園ではなく、別の学校に行くこととなったことを気にかけてくれているらしい。
しばらくその話をしてから、ふとお父さんが話題を変える。
「そういえば紗恵。VRゲームに興味ないか?」
「VRゲーム?」
「ああ。取引先が新しく作っているゲームがβテスターを募集しているんだ。それで父さんの会社にも何台か来てな。」
「それでどうしてお父さんに?」
「異動で紗恵が高校を変えることになっただろ?その詫びだそうだ。」
「ふふっ、アナタったら。引っ越しの所為で紗恵に嫌われるのも、単身赴任も嫌だって、転勤の件を無くそうと人事部長に掛け合い続けたって他の人から聞いたよ。人事部長のメンタルが折れる前に仲裁に入った常務が、学生が好きそうだからって渡してくれたんでしょう?」
「……大体あってるだろう?」
「ふふふ、それもそうだね。」
ちょっと悪そうに笑うお父さんと、にこにこと楽しそうなお母さん。
その会話を聞いて、私は学校で友達ができるか不安な事は話さないと決心する。
まだ学校始まってすぐだし、会話自体はしてるし。
私とお母さんには優しいけれどそれ以外には容赦ないお父さんにこの事がバレたら、人事部長さんが心配。
そもそも転勤を無くすために掛け合って、メンタル折れそうになるってどんな話したの?
それに結婚前お母さんも同じ会社で働いていたとはいえ、どうしてそんなに詳しく知ってそうなの?
気になるけど怖くて聞けない。
とりあえず私が喜ぶと思って仲裁を受け入れたみたい。
じぁあVRゲームは要らないと言ったら、今度はいい加減なことを言ったと常務さんにまで矛先が向かいそう。
VRゲームかぁ。
今まで興味なかったけどせっかくだししてみても良いかも。とりあえず調べてみようかな。
「えっとゲームのタイトルは?」
「”
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