エネミーズ・スタンピード:第二波

「あ、帰ってきた」

 リア達がエネミーズ・スタンピードの殲滅に向かってから約40分後、リア達が僕らの方に戻ってくる。


「いや~、大変だった~」

「お疲れ様」

「うん。スレアちゃんも、【終末の先駆者ラグナロク・プロトポロス】ありがとね。おかげでかなり楽になったよ」

「そう?それなら良かった」

「…だが、どうやら休憩はさせてくれないみたいだな」

 そう言って、ミディアが地平線の先を睨む。

 その先には、【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】が複数個の群隊に分かれてこちらに飛翔してきていた。


「…学習したか。一塊ではただの的だと判断したようだな。…それとも、トレウスの命令か…」

「それじゃ、僕が行って来るよ」

「あぁ、頼んだぞ」

「頑張ってね、スレアちゃん」

「うん、ありがとリア」

(…キュス、準備は?)

『できてるよ、問題なし』

(分かった。それじゃあ行こうか)

 さっさと終わらせよう。リアやサザレさんに暇をさせるわけにもいかないし。


虚構の核神ニャルラトホテプ】を変形させて翼を生やし、上空に羽ばたく。

「【開門ザ・ゲート悍ましき虚空の皇アザトース】」

 飛翔する速度を更に上げて、【開門ザ・ゲート】を発動する。更に、【絶対結界スヴェル】を発動して速度を上げる。円錐の形に広げた【絶対結界スヴェル】からベイパーコーンが発生し、その直後に風切り音が収まっていく。

『…どう、なってるの?』

 所謂、『は、僕もキュスも初めての体験だ。

(音の速さを越えたんだよ)

『音の…速さを?』

(うん)

『…すごい』

 音の速さ…大体1250km/hくらいかな。


 とまあ、そんなスピードで飛行しているのなら、当然【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】までの距離は一瞬で縮まっていく。


 ある程度近付いたところで、【虚構の核神ニャルラトホテプ】の羽を広げて空気抵抗を生んで減速する。

『すごい数…でも、【門の守護者ゲートキーパー】はいないみたい』

(そっか、ありがとキュス)

 …まあ、多分【門の守護者ゲートキーパー】が居ても居なくてもそんなに変わらないと思うけどね。

「【虚構空間イマジナリー・スペース】」

 僕を中心として、そこから【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】の8割~9割を【虚構空間イマジナリー・スペース】が包み込む。

「【捕食強化エンハンス・プレデション】」

開門ザ・ゲート悍ましき虚空の皇アザトース】の権能、【捕食強化エンハンス・プレデション】。

 この【虚構空間イマジナリー・スペース】に取り込まれた存在の数と強さの分だけ、【開門ザ・ゲート悍ましき虚空の皇アザトース】と【虚構の核神ニャルラトホテプ】が強化される権能。

 …正直、これは強すぎると思う。でも一対多ではとても有効な戦法だと思う。


 前に突き出した拳をぐっと握ると、取り込まれた【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】と共に【虚構空間イマジナリー・スペース】が収縮していく。

 やがて、そこに元から何もなかったかのように【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】の大群が消失する。

『取り込んだ数…1,284体、すごい量だね』

(そんなにいたんだ…)

 1300体近くいたはずの【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】は、まるで嘘のようにあっけなく【虚構空間イマジナリー・スペース】に取り込まれていった。


「【滅亡の焔レーヴァテイン - 制限破壊リミット・ブレイク】」

 通常の【滅亡の焔レーヴァテイン】よりも何倍、何十倍もの大きさの蒼白い炎が、僕の目の前に形成される。

 念のために僕自身を【絶対結界スヴェル】で包み込んでから、この【滅亡の焔レーヴァテイン】を地面にぶつける。

 凄まじい閃光、爆発音とともに発生した爆風と爆炎が残党の【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】を飲み込んでいく。


 暫くして炎が収まり、蜃気楼が起こって辺り一帯の景色がゆらゆらと揺らいでいる。そこに【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】の姿は無かった。



「なんなのだ!スレアは!?」

 あの数の【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】を一気に消し去っただと…?

 ありえん…そんなもの、ありえてなるものか………。

「それに何という威力なのだ、奴の炎…」

 オレンジや黄色に近い色ではなく、蒼白い炎など初めて見た…。どうやら桁外れの威力を有しているようだな…。

「それに奴は途轍もないスピードで空を駆けていた…」

 スレアの前に雲のような白い円錐が発生していた…。それはあの超高速飛行と何か関係があるのか…?


 いやしかし、私が大勢の魂を神に贄として捧げば…あんな奴、蟻を踏み殺すよりも簡単だ。

「…そのためにも、まずは計画だな」

 エネミーズ・スタンピードは後起こせて第5波までが限界だ。どうにかあと一回で片付けるしかない。…ええい、背に腹は代えられない…。

「アリス、いるか」

『はい、ここに。お父様』

「スレアなる人物を殺せ。エネミーズ・スタンピードと共にそのスレアの元に向かって殺せ。手段は問わん」

『はっ、かしこまりました。それでは行ってまいります』

「あぁ、頼むぞ」

 …アリスに任せておけば大丈夫だ。いくら天才的な戦闘センスがあったとしても、成長速度の速いアリスにはすぐに追いつかれてしまうからな。



『…スレア』

(うん。…なにか、来る)

 地平線の向こう側がキラっと光る。その後その輝いた光の正体である槍を【絶対結界スヴェル】で防御する。

 その後に、超高速で移動してくる人型の攻撃を躱す。幾度か急制動で向きを変えてこちらに突撃してきたが、正直当たったりはしなかった。


 そして、彼女と僕(【虚構の核神ニャルラトホテプ】)の剣が鍔迫り合いを繰り広げる。僕は剣から一瞬手を離して鍔迫り合いをキャンセルした後に、即座に剣を拾って彼女に斬撃を入れる。

「とてもお強いですね。…お父様よろしいですか?」

 彼女はお父様と呼ぶ誰かと話し終えた後、もう一度武器を構え直した。

「では…お見せしましょう。【開門ザ・ゲート光明の神矢アポローン】」


――――――――

作者's つぶやき:アリスさん…なんていうか、ご愁傷さまです。

取り込んだ【殺戮の熾天使スローター・セラフィム】1,284体の内、【滅亡の焔レーヴァテイン - 制限破壊リミット・ブレイク】で消費したのは100体。つまりやろうと思えば【滅亡の焔レーヴァテイン - 制限破壊リミット・ブレイク】をあと11回も連続で発動できるとか言う…。

バランスブレイカーだなぁ、とつくづく思います。

して、アリスさん、今回ばかりは相手が悪かったですね。スレアくんと戦う事になるとは…。

開門ザ・ゲート】同士の対決を制するのはどっちなんですかね?

――――――――

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