【開門】の予兆

「あっ、サザレさん。おかえりなさい」

「おかえりなさいサザレさん」

「うん、ただいま。二人とも」

【闘技場】でのPvPを終えて現実時間で約6時間。サザレさんがGSMワールドに戻ってきた。


「それで、結局はスレアちゃんが勝ったんだっけ?」

「そうですね」

「負けちゃったよ~。【開門ザ・ゲート】まで使ったのにさ~、残念」

 リアがそう言うと、サザレさんが呆れたようにため息をつく。

「はぁ…、【開門ザ・ゲート】には【開門ザ・ゲート】しか対抗できないはずなんだけどな…」

「まぁスレアちゃんだしさ」

「…まぁ、そう言われれば納得としか言えないんだけども…」




「あ~あ、なんか面白いクエストでもないかな?」

SPFスペシフィッククエストは【掲示板クエストボード】には無いからね、どこかでイベントを起こさないと、そうそう面白いクエストにはありつけないんじゃないかな」

「ですよね~」

 そんな会話をしながら、僕達は【掲示板クエストボード】を眺める。ここにあるのは大抵、高難易度クエストやエネミーを数体倒すクエストのみだ。

「ん~、全部びみょーだね」

「だね」

「―――あなた達、少し手伝ってくれないかしら」

 急に後ろから声を掛けられて、振り返る。

 僕達の後ろにいたのは、長く尖った耳をした【妖精族エルフ】だった。プレイヤーが選択できるのは人間だけだし、【妖精族エルフ】はNPCだ。

「…あなたは?」

「私は【妖精族エルフ】のレニアよ。よろしくね」

 レニアと名乗ったその【妖精族エルフ】は、軽く僕達にお辞儀をする。

「えっと…僕はスレアです」

「私はシャリアだよ。気軽にリアって呼んでね」

「…えっと、僕はサザレ。よろしくね、レニアさん。それで、手伝ってほしいって言ってたけど、何を手伝えばいいのかな」

「…ここでは少し話しにくいから、場所を変えましょう。【転移メタスタシス】」

 レニアさんがアビリティの名前を唱えると、辺りが光に包まれて、弾ける。光が弾けた瞬間には、周囲の景色は森の中へと変わっていた。

「…ここであれば、聞かれる心配もないでしょう」

「すご…瞬間移動系のアビリティなんてそうそう見た事ないのに…」

「そうかしら?」

 確かに、移動速度とかを上げるアビリティは見た事あるけど、瞬間移動とかのアビリティは見た事が無い。


「…と、話題がそれてしまったわね」

 レニアさんが咳払いをして、話を本題に移す。

「あなた達に、私達【妖精族エルフ】を救ってほしいの」

「…というと?」

「…先日、【妖精族エルフ】の集落は【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】の群れに襲われて、殆どが壊滅してしまったの。…生き残った私の従姉…長のミディア、それと、ミディアの近衛や一部の者達でどうにか、逃げ延びている状況になってしまったわ」

「…それで、私達には【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】を倒す手伝いをしてほしいって事だね?」

「はい」

 …まぁ、【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】くらいなら普通に倒せると思うけど…。

「でも、【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】は【妖精族エルフ】でも倒せるはずだ。それなのにどうして?」

「はい…実は、その【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】の中に、いくつか【門の守護者ゲートキーパー】が紛れ込んでいたようで…」

 …あぁ、【開門ザ・ゲート】の力でやられてしまったと…。



「それじゃあ、取り敢えず私たちはその【門の守護者ゲートキーパー】を倒せばいいの?」

「えぇ、その通りよ」

「…スレアちゃん、【門の守護者ゲートキーパー】から【開門ザ・ゲート】を手に入れられるかもしれないよ」

「分かった、僕達は手伝うよ」

「本当?良かったわ。…それじゃあ、ミディア達に報告しないとね。ついて来てもらうわ、【転移メタスタシス】」

 また光が弾けて、今度は集落の様な場所に着いた。簡易的な家が2、3軒ほど建っており、その内の一つの入り口に近衛らしき【妖精族エルフ】が2人立っている。


「ついて来て頂戴」

 レニアさんについて行って、近衛が立つ家の中へ入っていく。

「…おかえり、レニア」

「えぇ、ただいまミディア」

 中央に置かれた机に突っ伏した彼女が、レニアにそう言う。

「…その人がミディアですか?」

「えぇ、私達【妖精族エルフ】の長、ミディアよ」

 …なんだろ、すっごく無気力そうに見える。

「…あなた達は、私達を助けに来てくれたの?」

 起き上がったミディアが僕達に疑問を投げかける。

「はい。そうです」

「…そう。ならば、暫くの間ここにとどまってもらう事になるけれど、大丈夫かしら」

「はい、特には」

「そう…それなら良いわ」

 無気力そうに僕達と会話をするミディア。

「…ミディア、もうちょっと元気を出して、ね?」

「…無理だよ」

「辛いのは…みんな一緒だから…」

「…一緒だから、何…」

 壊滅、という事は…多分ミディアやレニアの家族はもう、いないのだろう。…少し親近感が湧くな…。



「…3人共、手伝ってくれるの?」

「えぇ。でも成功するためには、ミディアの力も必要なのよ」

「…そうだね。…分かったよ。やる」

 ミディアが起き上がって、僕達の方に向かってくる。

「…それじゃあ、改めてよろしくね。3人共」

「はい」

 ミディアが僕達と一人ずつ握手をしていく。


『…スレア。…【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】が大量にこっちに来てるよ』

 ミディアと握手を交わした直後に、キュスが僕にそう告げる。

「…悪魔が来たぞ」

 ミディアのその一言で、レニアさんや周囲にいた近衛兵達が一斉に外へと出ていく。

「…皆も、気をつけて」

「「「はい」」」

(キュス、行くよ)

『うん』


――――――――

作者's つぶやき:えーっと、まぁ、はい。あの~…まあ無双します。次回はスレアくん無双回になる予定です。

まあそりゃそうですよね。たかが【殺戮の権天使スローター・プリンシパティ】の群れなので。

…いや、まあ普通は全く『たかが』ではないんですけど。【殺戮スローター】シリーズNo.2の強さなんですし、それに加えて【門の守護者ゲートキーパー】もいるわけなんですけども…。

正直『だからどうした』で片付くと思います。乞うご期待です。

――――――――

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