高難易度クエストRTA

「折角だしタイムアタックでもする?」

冥界の牢タルタロス】のためだけに作られた特設のフィールドに転移して、目の前で眠っている【冥界の牢タルタロス】を前にリアがそんな事を言う。

「…まあ、別に良いけど」

『…スレアが良いなら、私も。…パイルバンカーでいい?』

(うん。問題ないよ)


 右手にパイルバンカーを形成して、眠っている【冥界の牢タルタロス】に限りなく接近する。

「【攻撃変転オフェンス・トランジション】」

 これでパイルバンカーの威力を上げて…。

(いくよ、キュス)

『うん』

「『神に裁きを。救いの手を差すものに断罪を。悉くを滅ぼせ、【消滅の希望ディスペアーオブリバース】』」


 そう唱えると同時に、パイルバンカーを射出して【冥界の牢タルタロス】に当てる。


 キュスが杭の形を変えて、全体に無数の棘を生やす。

 でも、【冥界の牢タルタロス】は意外にしぶとく、全身から棘が生えてもまだ動いている。というか全然元気そう。

 さながら某神話の生物のようで、気持ち悪い…というか不気味というか…。

 生物としてあまりにも有り得なくて冒涜的な、異形としか形容できない姿形をしている。


「うへぇ…これは…気持ち悪いぃ…」

「あはは…だね…」

「そうかな?」

『…しぶといね。面倒な奴』

(どうする?今の僕には防御力は皆無だけど)

『大丈夫。スレアの動きに合わせる』

(分かった)


冥界の牢タルタロス】から生えた触手が薙ぎ払うように僕に襲い掛かるが、宙返りでそれをひらりと躱す。

 続けてもう一発、パイルバンカーを【冥界の牢タルタロス】に向かって放つ。

 杭は【冥界の牢タルタロス】本体に届くことなく、触手に命中する。

 …でも、当たったならこっちのものだ。

 ナイフを取り出して、地面を蹴る。

「【縮地シュリンク・グラウンド】」

 アビリティでさらに加速して、突き刺さった杭にナイフを突き立てる。

 そして、刀身を包み込むように杭を変形させて、ナイフの刃渡りを延長する。

「『【神殺しゴッドキル】』」


 触手がまるで豆腐のように貫通して、刀身が本体を突き刺す。

 神が作った生物なら…というかそうじゃなくても、大抵の敵はこれで倒せる。


 ただ、手に持ってるものにしか【神殺しゴッドキル】は発動できないのが難点かな。


「…結局、出る幕ないんだよね~。スレアちゃんが強すぎてさ~、ほんと、困っちゃう」

 なんて呆れながら言うリアをよそに、【冥界の牢タルタロス】は生物が上げる悲鳴や、金属同士がこすれ合う音などが混ざった甲高い悲鳴を上げて、動かなくなる。


「…素材は…これかな」

【冒涜的な皮】…多分これだ。

「いやぁ…すごいね…」

「【冥界の牢タルタロス】…高難易度クエストのはずなんだけどなぁ…。これ、レベル上限解放してやっと倒せるかどうかくらいなのに…」

「あはは…多分装備のお陰だと…」

「いや、その装備…性能は【汎用防具ユニバーサル・アーマー】よりも僅かに高いくらいだろう?」

(そうなの?)

『うん。…だってこれは、元々神殺しをするためだけに創ったものだから』

 神殺し以外の機能を持ってないのか…。

『でも…』

(ん?)

『今はもう、スレアと一緒だから、だから、スレアと一緒に私も成長するの』

(…そうなんだ)

 それって仕様なのかな…?


「でも…本当に、強いね」

「そうですか?」

「うん!だってスレアちゃん、その装備する前から強かったもん!」

「へぇ…やっぱり、上級者は装備に頼らないのかな」

「そういう訳じゃないと思いますけど…」

『うん。スレアは私に頼り切り。すごく嬉しい』

 …あぁ、嬉しいのね。



「あっ、そうだスレアちゃん。折角だしその装備強化しに行こうよ!」

冥界の牢タルタロス】のいる特設フィールドからプライマリの【転移所ポータル・ポイント】に戻ってきて早速、リアがそう言う。

「強化?」

「うん」

『強化したら、もっとスレアの役に立てる?』

(…まあ、多分)

『じゃあやる』

(いいの?)

『うん。それでスレアの役に立つなら』

「…そうだね、じゃあやろっか」

「それなら、良いところを知ってるよ。ついて来て」

 そう言ったサザレさんに言われるがままついて行く。


「ここは?」

「ここは僕の行きつけの鍛冶屋。ここをやってる人はプレイヤーだよ」

 そう言いながら、中へ入っていくサザレさんの後を追う。

「いらっしゃい。って、あぁサザレ。どうしたんだい?今の防具はもう強化しきってるって言っただろ?」

「あぁ、いや、そうじゃなくて。今日はこの子の装備を強化して欲しいんだ」

「…へぇ、固定装備の防具かぁ…初めて見るね。いいよ、分かった。それじゃこっちに来てくれるかい?」

「え、あ、はい」

「あぁ、そういば名乗って無かったね。私はシホ。よろしく」

「あ、えっとスレアって言います」

「スレアちゃんね。それじゃ、二人は適当に座って待ってて」

「あ、はい」


 僕はシホさんと一緒に、奥の方の部屋へと入っていく。

「鍛冶屋は初めてかい?」

「あ、はい」

「気を付けたほうが良いぞ、たまにぼったくってくる奴がいるからな」

「そうなんですね…」

「っと、それじゃあスレアちゃん。ちょっとだけ装備を見させてもらえるかい?」

「あ、はい」



「…ふむ…この素材は…数が足らないな…」

「えっと、なんていう素材ですか?」

「あぁ、【権天使の羽プリンシパティ・ウィング】って素材なんだが…」

「えっと…これですかね?」

 そう言いながら、インベントリの【権天使の羽プリンシパティ・ウィング】を取り出す。

「あぁ、これだ…よし、これならちょうどだな。最大強化で良いよな?」

「あ、はい」

「今日は初回サービスってことでお代は無しだ」

「あ、ありがとうございます…」

「よし、それじゃあそこに立っててくれ」

 シホさんの言う通り、僕はその場に立って待つ。シホさんが僕から数歩ほど離れたところに素材を置いて、手を前に突き出す。

「【強化ストレンゼン】」


――――――――

作者's つぶやき:【冥界の牢タルタロス】…見てしまったら1d100のSAN値チェックを振りそうな見た目をしてるらしいです。

ですが、これはテーブルトークロールプレイングゲームではないのでSAN値チェックなんて必要ありません。

っと、TRPGネタが過ぎましたかね?面白いですよね、クトゥルフ神話。まあ、某這い寄る混沌さんのアニメを見たってだけなんですけど。いつか原作も読みたいなぁって思ってます。

ちなみに一番好きなのは嘆きの聖母たちです。今度それでSSを書こうかどうか悩んでます。気になった方は調べてみてください。普通に3人セットの美人さんが出てきます。…あぁ、調べるのは自己責任ですよ。発狂しないでくださいね。

――――――――

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