あなた配信者だったんですか…。

 リアが倒されてから体感1秒もなく、僕の目の前に一瞬だけサザレさんを捉える。

 咄嗟に体を動かしつつ【深淵の神殺しダインスレイフ】の変形機能と連携して、どうにかサザレさんの攻撃を捌ききる。

「あっ…ぶない…」

 キュスの第六感がまるで使い物にならない…、視えたと同時に攻撃が来るからそんなに頼らないほうが良いか…。


『…第六感、頼りにしないで』

(うん…その方がいいかも)

 それからサザレさんの攻撃を避けたり受け流したりしつつ、僕は確実に壁際に追いやられている。

 …だから、壁際に到達する前に前に出る。


 サザレさんの攻撃の隙間を抜けて、サザレさんを背後から蹴り飛ばす。

 サザレさんは蹴り飛ばされた勢いのまま、壁に激突して大量の月煙を巻き上げる。

 …多分、この後これをスモークにして突っ込んで来る。

「…やっぱり」

 土煙の中から、サザレさんが猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 サザレさんの刃を体を少しだけずらして避けた後、太腿のナイフホルダーから取り出したナイフを覆い隠すように【深淵の神殺しダインスレイフ】を変形させた剣で鍔迫り合いに持ち込む。

 剣を弾かれたと見せかけて上に投げ飛ばして、隠し持っていたナイフを突き刺す。

 上に投げ飛ばした剣をキュスが引き寄せて、追加でサザレさんの首と四肢を切断する。


 …これで勝ち、でいいのかな。



「いやぁ…、結構いいところまで行ってたと思ったんだけどなぁ…」

「あはは…たまたまですよ、たまたま」

「…あっ、そういえば言い忘れてたんだけど…これ配信してたんだよね」

「…っぇ」

 サザレ…サザレ…?サザレって名前の配信者…えーっと…。

「えっ…っていうことは…もしかしてサザレ・リヒトさん!?」

「あはは、大正解」

「えーっ!!??」

 リアがまた大音量で驚きの声を上げる。…そうなんだ。

 普段配信者の動画や配信を見る事なんか滅多にない僕でも、名前は知ってる。

 サザレ・リヒト…確か超人気Vtuber…だったはず。

「だからリア、うるさいって」

「あっごめん」

「本当に、言い忘れててごめんね」

「いや…大丈夫ですけど」

「スレアちゃん、もっと驚いたり喜んだりしても良いんだよ!」

「…いや、まあ…うん」

「あはは、落ち着いてるね。もしかして慣れてたりする?」

「いや…特に慣れては無いですけど…」

 僕はサザレさんのファンって訳でもないし…。

「緊張してるのかな?」

「…いや、そういう訳でもないですけど…リアの大声で驚きとかが全部消えたってだけです…」

『…ねえスレア、サザレってそんなに有名なの?』

(あぁ…まあ、多分そうなんだろうね)

『へー…』

「…っていうことは、僕達とサザレさんの戦いって配信されてるってことですよね」

「そういう事になるね。いまコメント欄がスレアちゃん強すぎで溢れてるけどね。これでも僕、腕には結構自信あったつもりなんだけどね」

「いや、サザレさん強かったですよ」

 実際何度か危なかったし。

「あはは、勝った人に言われても気遣われてるようにしか思えないよ」

「いやいや、本当ですって」

「そうかい?だといいんだけど」



 スレアさんとシャリアさんとの戦闘が終わった後、僕の配信のコメント欄はスレアさんの事で埋め尽くされていた。

 -スレアちゃん強くてかわいいとか無敵かよ-

 -隣に居るシャリアちゃんもかわいい-

 -この二人がいるなら俺もGSMワールドやろうかな-

 などなど…僕の配信に来てくれるのは大体が男性だし、こうなることは何となく想像ついてたけどね。

「…そうだ、折角だしこの後もいくつか一緒にクエスト回ろうよ」

 -お、サザレがデートに誘おうとしてるぞ-

 -マジかお前…-

 -惚れた?惚れたんか?-

 -まあ確かにこの二人かわいいしな。一緒にいたい気持ちは分かるよ-

 僕のその発言にデートとか惚れたとか、コメント欄が反応しだす。

「デートって…別にそういうつもりじゃないんだけどなぁ…」

 -嘘つけ-

 -絶対嘘だな-

 -本当の事言おうぜ-

 …君らの中での僕のイメージどうなってるのさ…。

「あはは…、…いいですよ。いつも通りリアとクエスト回ったりする予定だったので」

「本当かい?それなら良かった」

 -お、OKもらえた-

 -よかったじゃん?-

 -なんだ、もう堕ちてるのかこの二人?-

 -スレアちゃんは塩対応だけどサザレが大好き…ってことか!?-

 だから…。別にそんなんじゃないと思うよ…?それに言うほど塩対応でもないと思うし…。

「じゃあ、取り敢えずよろしくお願いします」

「えっと、よ、よろしくお願いします!」

「うん、よろしく二人とも」

 -シャリアちゃん満更でもなさそう-

 -きっとサザレが好きなんだ-

 -それライクかラブかどっちだよ-

 -そりゃぁ…ね…-

 …本当に、君たちさぁ…。

「それじゃあ、何のクエスト受けます?」

「そうだね…二人は何か希望とかある?」

「いえ、特には」

「そうかい?…それじゃあ…そうだね…」

掲示板クエストボード】を眺めながら、適当な難易度のクエストを見繕う。

「じゃあ、これなんてどうだい?【冥界の牢タルタロス】の討伐」

 -ナチュラルに高難易度クエスト選びやがった!-

 -おいおいおい、死ぬぞ-

 -死んだな(確信)-

 -スレアちゃん、シャリアちゃん、いざとなったらサザレを盾にして逃げるんだぞ-

 -高難易度クエストを選んでいいのは肉壁になる覚悟があるやつだけなんだぞ-

 …あはは、肉壁になるのは勘弁してほしいね…。


――――――――

作者's つぶやき:サザレさんはさぞ有用な肉壁になってくれるでしょう()

さてそれはそうとして、唐突に飛び出てきたサザレさん人気配信者設定。まあ初見で気が付かないのはなんて言うか、スレアくんが配信とかを見ないからですね。

シャリアさんは…まあ、はい。たまたまアバターと名前が似てる人の可能性を消し切れなかったんでしょうね。

…えっと、まあ配信者出した理由なんですけど…とある人の小説の影響です。

…あの、本当に尊敬してる人なんですよね。私もコメ欄に出没してるんですけど…。

ダンス部の部長が配信者やってるVRMMOの小説を書いてる方なんですよ。ほんとに面白いんで見てください。

本人様に許可を取ってないんでペンネームとか作品名は伏せてますけれど…。ゴマすりとかじゃないですよ?本当ですからね?

――――――――

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