紀元2995年
スノスプ
第1話 緑の丘
今日は夕立が降るらしい。いつもの作業、いつもの笑顔。少し急いで作業をしていると、Saraも同じように急いでいた。
「そこからここまでお願い」
「あ、はい!」
汚れる仕事だが、嫌いではなかった。ロボットと一緒に作業を繰り返す。ロボットはたまに間が抜けているところがあり、それがまた可愛らしい。
特に好きなのはUという動物だ。体が大きいわりに気が弱く、しかし好奇心が高い。生産指数は35で、昔地球から連れてきた動物の中では優れていた。知性は自然のままで高くはないが、数少ない有益な動物である。
――ザァァー。
雨が降り始め、大粒になった。作業はほとんど終えていたので、屋根の下に入り、雨の音を聞きながら雑談をした。昨日の出来事や、今日これからと明日の作業について軽く話した。大粒の雨の中、作業するロボットをぼんやり眺めながら、いつもながらの風景を楽しんでいた。
B-2365地区で火災があったというニュースを見て思った。数年前から電波状態が悪いのか、もう一つの大規模食糧コロニーからの連絡が途絶えている。人工宇宙群の反対側にあるその星はここからかなり遠く、たまに電波が悪くなることはあったが、4年も音沙汰がないのは異常だ。
まるで情報を隠されているかのように、その星の情報が無くなった。それと呼応するかのように、この小さなDF-66693地区の生産量でさえ、急に30%アップを目標とされた。いつもより忙しい日が続き、忙殺されていたが、ある程度落ち着いた時に妙な違和感を感じた。
Saraは元々ここの住人ではない。当初はもう一つの食糧コロニー、ノールチタンという星にいた。ここはコロ莅ズF4というところだ。ノールチタンは生産指数70以上の効率を重視した星で、生産量はこの星より段違いに多かった。宇宙中にその食糧は供給され、規模も人口も施設も圧倒的に大きい。
Saraは昔から知識で知っていて興味があった動物をどうしても知りたいと、小さな時から移住願いを出していた。それが15年前にようやく通ったのだ。まだ子供だった彼女だが今では高等学校に通いながら作業をしている。しかし、最近故郷に帰りたいと思うようになってきた。連絡が途絶え、少しずつ気になってきたのだ。
「おい!ぼうっとするなよ」
急に声をかけられ驚く。振り向くと、先輩のTが笑っていた。
「ぼうっとなんてしていません!Tさんこそ今まで何していたんですか」
こちらも笑顔で少し強めの口調で話す。
「こっちも忙しかったんだぞ、火災があったという報告を受けてだな」
「それなら知っています。Tさん、まさか向かったんですか」
「う〜ん、いやあ」
声がどもり、二の句が継げない。こういう時はほとんど役に立たない何かをしていたというサインだ。
「行かなくて良かったですよ、怪我をするだけです」
「そんなことはないけど……」
「で、何をしていたんですか?」
「いや、しっかりどんな作業をするか観察し……」
「またモニターで見ていただけですか、こっちも手伝ってください!」
「いや、観察も大切なんだぞ。大体次のリーダーになる俺が……」
「リーダーになってほしくないですね。こちらは忙しいっていうのに、丸さんもいつもよりずっと作業が遅れてたんですから……。そんな暇があるなら手伝って欲しかったです!」
「丸さんはサブなんだから当たり前だろ」
「何が……」
些細な挨拶だけで終わるはずの話が、お互いムキになって、結局いつもの喧嘩の光景が繰り広げられた。
本当にむかつく。「そんな子供みたいな考えでリーダーになれるんですか?」「お前こそそんなんだから……。以前悩んでるって言ってただろ。子供のような体型が嫌だって、そんな子供の考えだから、体に出てるんだよ」
……だん! 強く壁を殴る。む、むかつく――。なんでこんなやつに悩みなんて相談してしまったのだろうか。
部屋に戻り落ち着こうとシャワーを浴びる。体の発育などこの世界ではあまり関係ない。100歳を超えても子供のような体をしている人もいる。そんなことは気にしなくてもいいが、人から言われる筋合いもない。その上あいつから言われるなんて……だから素行指数がまだ18なんだろう。イライラしながら胸部を揉む。気にしなくてもいい。いつもより長いシャワーを浴び、1日の疲れを癒やす。嫌なことも時間をかけて忘れる。そして元の素敵な笑顔に戻る。今日のこの幸せを噛み締める短い時間が好きだ。そんな毎日が続いていた。
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