スキル無しの無能冒険者、試練に打ち勝ち勝利を掴め
風鈴
第1話
「君はここで追放だよ雑用係くん。僕たちの囮として最後まで抗ってくれたまえ」
どうしてこうなってしまったのだろうか。眼前には死の宣告を言い渡してきた
剣を引き抜き、後方から暴徒の如く押し寄せる魔物の大群を目に据える。地震によって生じた津波がかわいく見えてしまうほどの質量を誇ったその大群の足音が鼓膜を震わす。
きっと俺はここで死んでしまうのだろう。こんな大群を相手に生き残ることができるのであれば、高くもない金を貰いにこんなところへは来ていない。
どうせ死ぬのだ。魔物どもは俺には目も向けず、ただ逃げてゆく者どもを殺すために俺を轢いてゆくのだろう。
であれば、せめてもの足搔きとしてこの魔物たちに俺を敵だと認めさせてやろう。決して無視できぬ存在であると脳に刻んでやろう。
誰も俺のことを冒険者としては見てくれなかった。ただ雑用係としてでしか価値がないと言われ続けてきた。たとえ魔物であったとしても、最後くらいは俺は誰かに認めてもらいたいものだ。お前は決して弱くはないと、お前は勇敢な冒険者であったと、お前は侮ることのできない強者であったと。
遂に魔物どもと接敵してしまった。ガーゴイルの爪が剣を折った。俺はガーゴイルの翼を残った刃で切り裂いた。ビッグラットの牙が両足を食いちぎった。俺はビッグラットの群れを燃やし尽くした。ウォーウルフが左腕を切り裂いた。俺はウォーウルフの首をネジ切った。数え切れないほどの攻防を繰り返した。そんな攻防も長くは続かなかった。ついにリザードマンの槍が俺の心の臓を貫いたのだ。
しかし、それで終わるほどおれはやわではない。最早使い物にならない手腕を力を振り絞って動かす。
リザードマンの喉元を狙い、その剣を突き出す。
俺の腕に赤黒い液体が滴り落ちる。遂に終わったのだ。俺の短い短い人生が。これ以上抵抗することなどできるわけもなく、意識が沈みゆくのに身を委ね、死を受け入れる。
最後の最後で認められてよかった。そう思いながら俺は虚しい生涯に幕を下ろしたのであった。
▼
「おい雑用係! 新しいゲートが見つかったらしいから特別にお前も連れて行ってやるよ!」
「分かりました。給金はいくらですか?」
「あぁ? 一万だけだ! もらえるだけありがたいと思えよ!」
「分かりました。ありがとうございます」
「ふん! わかってるならいい。俺たちのパーティに入れて光栄だと思えよ!」
冒険者協会にて目の前の男に虐められながらも誰も手を貸そうともしてくれないような底辺冒険者、雑用係こと
学校では成績は常に上位で、短距離走は中堅程度だが、持久走だけは学年でぶっちぎりの一位であった。人間関係も良好で、多くの友達がいた。
しかし、世界にゲートが現れてから、その幸せな人生は幕を下ろした。
皆がD級やC級、B級スキルを手にし、狂喜乱舞していたのに対し、俺だけは何も得ることはできなかったのだ。
そのせいで俺の学校での地位は一気に下落し、友情の眼差しは、侮辱の眼差しへと、羨望の眼差しは、軽蔑の眼差しへと、期待の眼差しは、失望の眼差しへと変化していた。
俺がこのような扱いを受ける理由は単純で、価値がなくなったからだ。ゲートの攻略にスキルは必須なのだ。剣術や魔法を使うこともできるが、そんなものよりも圧倒的な力を持つのがスキルだ。
A級スキルホルダーともなれば、一人でB級スキルホルダーを10人相手したとしても圧勝できる。ちなみに、B級は10人で一国と同等の戦力を持つとされている。
ゲートに入ると、ダンジョンにつながり、そのダンジョンからはアダマンタイトやヒヒイロカネなどの幻の鉱石、ダンジョン鉱石が産出したり、魔物を倒せば魔石が落ちたりするのだ。
今ではダンジョン鉱石は建築などに広く使われ、魔石は新たなエネルギー源として活用されている。
そんな中、スキルを持たない俺は魔術や剣術など、ありとあらゆるものを会得したが、どれもスキルと比べれば児戯に等しいのだ。
故に俺は『器用貧乏』と呼ばれ、『雑用係』という地位にいるのだ。
「勝君、あまり風鈴君を虐めないであげてくれ。彼も頑張っているんだよ」
勝とよばれた人物は、
望月さんは『月光の加護』という珍しいスキルを持っており、そのおかげで圧倒的な実力とカリスマがあるのだ。その望月さんがリーダーを務めるパーティの『希望の剣』は新進気鋭の新人パーティで、リーダーの望月さんがB級冒険者、副リーダーの
パーティランクをG級からC級に上げるのに普通は1年かかるのだが、『希望の剣』はわずか1か月でC級まで上げたのだ。今最も注目されている新人パーティと言っても過言ではないだろう。
「チッ。分かったよ馨さん」
炎城は望月さんに謝罪だけすると、不貞腐れながらも帰っていった。こちらとしては帰ってくれてありがたいが、この後にまたあれの相手をしないといけないと考えると、少し憂鬱だ。
「助かりました、望月さん」
「いや、いいんだよ。勝君が失礼をしたみたいですまないね」
「いえ大丈夫ですよ。もう慣れたものですから」
「そうか……なにかあったら言ってほしい。力になるよ」
「ありがとうございます。そんなこと、起きないのが一番うれしいですけどね」
「ははは。違いない」
望月さんはB級の中でもトップクラスの実力を誇っており、俺のような底辺に対しても差別することなく接してくれる聖人君子のような人物で、多くの人から慕われている。そのような人が力になってくれるというならば、まさに敵なしだ。
「それじゃあそろそろ行こうか。ちゃんとついてきてね」
「分かりました。」
「すこし離れの山の中まで行くからね。疲れたら言ってね」
現在、大量のゲートが発見されているが、今でも未発見のゲートはたくさん眠っていると考えられている。今回のゲートも新発見のゲートだ。
ゲートによっては攻略が遅れると、ダンジョンブレイクという災害を引き起こすことがある。いずれの国も、ダンジョンブレイクで大きな被害を被ったため、現在ではゲート攻略が世界各国の最も優先される事柄で、疑似的な世界平和が続いている。
暫く望月さんとの談笑に花を咲かせながら歩いていると、いつの間にかゲート前についていたようだった。
緑色の木々に囲まれた、穴のようなものがそこにはあった。。
いや、ヒビといった方が近いかもしれない。どちらにせよ、周りから浮いている存在であることは明らかだろう。
「遅れてすまない。さて、最終確認としよう。いつもの通り僕は後方からの魔術支援と司令塔の役割を受け持つ。そこの風鈴君は雑用係だ。気軽に頼ってあげてほしい。勝君がメインアタッカーで……」
望月さんが次々とメンバーに指示を出していく。まだ誰も足を踏み入れたことのないゲートなのだ。慎重にならざる負えないのだろう。
望月さんの指示を横目に、俺は俺で雑用係としての仕事を行う。
まずは持ち物の管理だ。ポーションにロープや、野営セットにマッチ、ツルハシやランタンなど、抜けがないかチェックしていく。
備品に不備がないことを確認し終えたら、次は装備品の管理だ。刀剣類に刃毀れがないかチェックし、あれば報告をする。一つ一つ慎重に確認したが、特に確認されなかった。
そうこうしているうちに時間は過ぎていく。いつの間にか全ての確認が終わっていた。
「最終確認は終了だ。みんな準備はいいな? 出発だ!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
望月さんが普段の口調とは違い、皆を鼓舞するような口調で声を張り上げる。パーティメンバーたちもそれに応え、空気が張り裂けそうなほどの声量で叫んでいた。
今から向かうゲートは、誰も足を踏み入れたことのないダンジョンだ。不思議と心が躍る。どれだけ弱かったとしても俺はやはり冒険者なのだ。新しいことに挑戦することに楽しみを感じる人種なのである。
この先には何があるのだろうか。あらたなダンジョン鉱石が眠っているのかもしれない。はたまた未発見の魔物がいるかもしれない。期待を裏切り、特段変わったことのないただのダンジョンかもしれない。
淡い期待を胸に寄せながら俺たちはゲートをくぐった。
このときはまだまだ楽観視していたんだ。この先のダンジョンが一体どんなものであるかを考えず、慎重に行っていたと思っていても、まだまだ甘かったんだ。
『希望の剣』が新進気鋭の冒険者パーティとはいえ、いとも簡単に制圧されるということを俺たちは理解していなかったのだ。
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望月馨
『月光の加護』
月魔法が使えるようになり、威力がn%上昇する。
月の満ち欠けによって倍率が変動し、満月では1000%、新月は上昇なし。
月食時は皆既月食では無制限の魔法使用、その他では使用魔力量が90%減少する。
筆者の風鈴です。
この作品について気になった点や助言など御座いましたら何でも言って下さい。多忙の身ではありますが、できる限り要望に応えますし、助言も私自身の成長にもつながりますのでどうかよろしくお願いします。
スキル無しの無能冒険者、試練に打ち勝ち勝利を掴め 風鈴 @kuma254
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