第40話 問いと答え


「じゃあ早速一つ目の質問――――君が最強であること、特別な存在であることを周りの人達はいつから認識していたと思う?」


 早速、成瀬リノアによる俺への質疑応答が始まった。

 俺が何も答えずに俯いていると、彼女は答えを催促するかのように再度口を開く。



「さぁ、早く答えて。こういうのは直感が大事なんだから。いちいち考えていたら意味ないよ?」


「わ、わーったよ……」


 俺は成瀬リノアの言葉を受け観念し、彼女の質問に答え始めた。


 

「た、多分……愛華を助けに行った時じゃねぇか? 愛華の配信に映り込んで、S級指定を倒したあの時――――」


「そうだね。なら、その時から既に周りの人達は君の事を特別視していたってことになるが?」


「いや……ちげーな。アレは、俺の事をスウェットおじさんだの、無職だのとバカにしていただけだ」


「本当にそうかな? じゃあ、ゴブリンキングを倒した時、その場にいた二人・・の反応は君にどう映っていた?」


「…………驚いてたな。有り得ねぇって顔してた気がするぜ……」


「ふふっ……。そうだよね? じゃあその後、ネットの反応を見せてもらったよね? それについてはどう思った?」


 成瀬リノアは、淡々と質問を続けているかと思えば、今のように時折笑みをこぼしたりもする。

 俺が彼女の質問に対し、素直に答えているのを楽しんでいるようにも見えた。

 それより俺は、成瀬リノアが出した質問に疑問を抱いていた。


 ―― さっきからコイツ、何で俺しか知らねぇ事を知ってんだ……?

 まるでどっかからずっと、俺を見てたみてぇに……。


 

「ん? どうかした?」


 俺が怪訝な表情を浮かべていると、成瀬リノアは真っ直ぐに俺を見つめ、首を傾げた。


 ――何だ……? 俺の疑念に気付いてねぇのか?

 いや、コイツに限ってそんな事あるはずねぇ……。

 一体、何を考えてやがる……。



「また黙るのかな? さっきも言ったけど、直感で答えないと意味ないよ?」

 

「わーってる。えっと確か……ネットの反応を見てどう思ったか、だよな。だからそれは、俺の容姿が――――」


 俺は先の質問に対して、自分の容姿がだらしない事を指摘されていたと答えようとした。しかし、成瀬リノアはそれを許さなかった。


 

「――――本当か? 本当にそれだけの事で、ネットのトレンド一位を独占出来ると思うのかい?」


「いや……。思わねぇ……。きっと、俺の強さが異常だったからだ……」


「ふふふっ。次からは正直に答えなね。僕には全てお見通しだよ。じゃあ次はー、イレギュラーモンスターと遭遇した時や、ゴブリンキングを前にした時にあの女・・・がひどく怯えていたのは何故かな?」


「それは愛華のことか?」


 俺がそう尋ねると成瀬リノアはこくりと頷いた。

 


「まぁそりゃあ……愛華にとって、ソイツらが命の危険を感じる程に格上だったからじゃねぇのか?」


「ふふふっ……。やっぱりわかってたんだね。なら、スタンピードの一件で、四天王がミノタウロスを倒さず、雑魚モンスターの相手を続けていたのは何故だと思う?」


「はぁ。それも今ならわかる……。四天王のヤツらに、ミノタウロスは倒せる力が無かったからだ」


「ふふっ。漸く繋がってきたね」

 

 成瀬リノアは俺の答えを聞く度に不敵に笑う。それは俺が彼女の誘導に上手く乗っているからだろう。

 そして俺はこの質疑応答に入る前の成瀬リノアの言葉と、これまでの質問で、彼女の狙いにおおよそ見当がついた。


 ――コイツは俺に認めさせてぇんだな。

 俺が自分は世界最強だとずっと前から・・・・・・自覚していたって事を……。


 そして成瀬リノアは畳み掛ける――――

 

 

「探索者ギルドに登録した後、君が異例のC級スタートだったのは何故? 初配信であれだけの視聴者を集められたのは? ミストドラゴンを倒し、日本人初の完全攻略を成し遂げ、S級探索者となれたのは何故だ?」


「全部……俺が世界最強の力を持っている、特別な存在だったからだ……」

 

 成瀬リノアによる絶え間ない質疑応答を繰り返す度に、自分が非凡な才能を持っていて、特別な存在だった事を突き付けられた。

 そして、彼女は最後の問いを俺に投げ掛ける。

 


「じゃあ最後の質問。これだけの事象がある中で、自分が特別である事に気付けなかった――――いや、気付いていた上で、わざと気付かないフリをしていたのは何故だ?」


「…………」


「ここまでも答えられたんだ。これにだって答えられるはずだよ?」


 成瀬リノアは執拗に俺を追い詰める。だが、俺はここでも逃げ・・を選択する。

 


「知らねぇよ……。俺は自分の力が特別だなんて思っちゃいなかった。今だってそうだ……! 周りのヤツらが何と言おうと、俺は普通の――――」

 

「――――じゃあ何故、自分の力は人並み・・・レベルだと言っておきながら、何度もダンジョンへ潜り、人並みの力では到底倒す事が出来ないモンスターに立ち向かう事が出来たんだい? それは……君が自分が最強だと自覚していたからだろう?」


 しかし、成瀬リノアはそんな俺の選択を許さない。遂に彼女は最後のカードを切った。



「くっ…………」


「チェックメイトだよ、一ノ瀬翔。君は以前から、自分が世界最強だと自覚していた。そしてそれを頑なに認めず、人並みレベルだと自分や周りに言い聞かせて来た。そうだね?」


 成瀬リノアは勝利を確信したのか、俺に優しい声色で語り掛けた。そして俺は意地を張るのをやめた。


 

「はぁ……。そうだ。俺は自分が強いことを自覚していた。そりゃそうだろ。あんだけお膳立てされて気が付かねぇ方がおかしいじゃねぇか。――――だけどよ、認めたくなかったんだ。自分が特別だってことをな……」


「やっと認めたね。で? それは何故?」


 自分の思惑通りに事が進んで気持ちがいいのだろうか。成瀬リノアは笑みを浮かべながら俺を見つめている。そして俺は彼女に心の内に秘めてきた想いを打ち明ける。

 


「俺は……ダンジョンが怖ぇんだよ……」


「へぇ……。それは、両親をダンジョンのせいで失ったからかい?」


「そうだ……。ダンジョンは俺から何もかも奪った。口は悪いけど強くてカッコよかった親父や、いつも優しく俺を包み込んでくれたお袋、貧乏だったけど幸せだった生活も全てな」


「人生で最大のトラウマだもんね。記憶に蓋をしてもなお、引きずってしまうのも無理はないよ」


「あぁ。だから怖かった。また、俺の大切なものを奪われるんじゃねぇかって、怖くて堪らなかった。だから俺は一人で生きてきた。これ以上、何も失わなくて済むように……。20歳はたちを超えてからはダンジョンに近付くことさえしなくなった」


 全てが成瀬リノアの言う通りだった。

 彼女は俺と出会った瞬間から、俺の全てを見抜いていたかのように、心の内にあったものを全て表に引きずり出した。

 それでも尚、彼女は続ける――――

 


「でも君は、またしてもダンジョンへ潜った。それも何度も」


「あぁ。何でだろうな……」

 

あの女・・・がいたからだろう?」


「はぁ……。愛華だな……。確かにそうかもしれねぇな……」


「チッ……。クソ生意気な女め……」


 愛華の話になった途端、成瀬リノアの表情は歪んだ。苦虫を噛み潰したような顔で、舌打ちをしている。何か因縁でもあるのだろうか。

 


「まぁ、あんなクソ生意気なガキだけどよォ……いや、あんなクソガキだからこそ、心配になっちまうんだろうな。ほんと、何でなんだろうな」


「ん……? もしや君、覚えていないのか?」


「あ? 何がだよ?」


「いや、覚えていないのならそれでいい。邪魔者が消えるだけのこと――――」


「ンだよ!? そこまで言われたら気になんだろうが! いいから教えろ!」


 愛華の話から突然、成瀬リノアは意味深な事を口にした。初めは勿体ぶっていた彼女だったが、俺が怒鳴るとため息混じりに説明を始めた。


 

「はぁ……。君、10年くらい前に渋谷ダンジョンの前で小さい女の子をモンスターから助けた事があっただろう?」


「あ……? まぁあったかもしれねぇな。あの頃は毎年、両親の命日に渋谷ダンジョンの前へ行ってたからな。ただ、ダンジョンが怖ぇから酒で記憶を飛ばしてからだったけどな」


「ふふっ。その頃君は未成年だろう? れっきとした犯罪だな」


「ンな事はわーってるよ……。だけど、あん時はああするしかなかったんだ。…………って、テメェまさか!?」


「その時助けた女の子は今頃、あの女と同じくらいの歳かもしれないな」


 そう言った成瀬リノアは何故か遠くを見つめていた。そして俺はしばらく記憶を辿ってみたが、やはりハッキリとは思い出せなかった。

 

 

「いや、まさかな……。やっぱ、ンな偶然があるわけねぇよ」


「そう……。まぁ君がそれでいいなら僕はそれでも構わないけど……。――――それより、そろそろじゃないかな?」


「あん? 何が?」


「――――特別ゲストっ♪」


「はぁ?」

 

 成瀬リノアはそう言うと、路地の入口の方へ目をやった。つられて俺もそちらへ目をやると、そこには一人の女性が立っていた。



「翔くん……」


「な、何で……? 何でここにいんだよ――――山本さん……!?」


 俺は路地の入口付近に立ち、思い詰めた表情を浮かべている山本さんを見つめ、そう叫んだ。

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アラサー無職のダンジョン革命〜かつて世界最強だった探索者の息子、パチプロ辞めて探索者になるってよ〜 青 王 (あおきんぐ)👑 @aoking1210

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