第1話 最低の日
「ねーねー、おとーさん! きょーはどんなモンスターをかいてくれんの?」
「うーん、そうだなぁ……。よし、じゃあ今日はこれにすっかァ!」
そう言うと親父は白い紙に、全身が
「いいか、
「へぇー! そいつ、つえーの!?」
「いや、ぜんっぜん大した事ねぇ! 俺が相手なら瞬殺だな! ハハハッ!」
「さすがおとーさんだね! ゴブリンはよえーやつ!」
「ぷっ……! そうだな! だがなぁ、翔。さっきも言ったがコイツは
「いれぎゅらぁー?」
「そうだ。ソイツらは元の個体とは違って恐ろしくつえー。そんでソイツらの特徴は色が他とは違ってな――――」
◇
◇
「おーい、翔ー!」
「なあに、おとーさん?」
「今日は大事な話をしてやる」
「だいじなはなしー?」
「そうだ。翔もデカくなったら色々やりたい事とかあんだろ?」
「うん!」
「でもな、人生は何が起こるかわからねぇ。嫌な事も沢山ある。そんなもんに押し潰されて、人間として腐っちまう事もあるかもしれねぇ」
「うん……?」
「だがな、これだけは覚えとけ? "人間腐らせても、男は腐らすな"。困ってる女がいれば必ず助けろ。いいな? これは父さんとの約束だ」
「わかった! おれ、くさってるおんなは、かならずたすける!」
「ぷッ……! ハハハッ……! 腐ってる女って何だよ!? おもしれーな、翔は!」
「えへへぇ……」
◇
◇
◇
――――〈2×××年11月11日15時00分〉
騒がしい音に耳を突かれ、俺"
「んあ……? 俺、いつの間にか寝ちまってた……」
「あら? やっと起きたの翔くん。
寝起きの俺に隣から声を掛けて来たこのマダムは山本さん。
近くでスナックを経営しているらしいが、最近になってよく話すようになった。
「あ? 嫌味かよ、そりゃあ? こんなに何にも起きねーんじゃ仕方ねーだろ?」
「まぁ、それもそうね。私の
俺と山本さんはヤキモキしながら、何も起こらない
――――ポンッ
「おっ……! 今日も来たなぁ?」
するとそこへ突然"L"という文字が書かれた一つの白いサイコロが発現した。Lの意味はイマイチよくわからないが、俺はニヤリと笑みを浮かべてサイコロを掴むと、適当な位置にそれを転がした。
「ん? 翔くん、それは何? サイコロ?」
「あぁそうだ。まぁ特に何の意味も無いんだけどな」
「へぇー。そうなのかい……」
そんな事を言いながら、山本さんは転がるサイコロを見つめている。そしてそのサイコロは、俺を嘲笑うかのように赤い点を上に向けた。
「ゲェ……1かよ……。今日はマジでツイてなさそうだな……」
俺のスキルは、サイコロを
というのも、このサイコロは毎日一つ、必ず俺の前に現れる。因みに自発的にサイコロを出すことは出来ない。
だがスキルとは言っても、ただサイコロが発現するだけで何の流用性も無い。だから俺は、その日の運気を占う意味を込めて毎日サイコロを振っている。
そして今日の出目は1――――つまり最低の日だ。
「あら、ほんと。今日は駄目みたいね? もう帰ったら?」
「いや、まだまだ……! 勝負はこっからやで、やまもっさん!」
「何で唐突に関西弁よ? ――――おっ!? そんな話をしてたら
そんな事を話していると、隣に座る山本さんの打つパチンコ台が騒がしくなり始める。
『リーチ! あっついねー!』
「あっついねーだって! 聞いた!? 翔くん!?」
「あぁ、聞いてるし見てるよ。ったく、いいなぁ山本さんの台は好調で。俺のはダメだ。朝からうんともすんとも言いやがらねー」
「まぁ生きてたらそんな日もあるわよー。――――お? コレは当たりそうね……」
俺の話を軽く聞き流しながら山本さんは目の前の画面に集中している。そしてひとたびボタンを押せば、画面いっぱいに"大当たり"の文字が表示された。
「やったわー! これで今日も10万勝ちは堅いわぁ!」
「おめでとう、山本さん。どうやら俺は駄目みたいだし、やっぱ帰るわ」
「そう? まぁ明日また来れば、勝てるかもしれないし、あまりヘコまない事ねー!」
「うぃ〜……」
こうして、ご機嫌な山本さんに見送られながら、俺は後ろ向きに手を振りパチンコ屋を後にした。
◇
「あー、クソっ……。やっぱ1が出る日は駄目だなぁ……」
俺はそう呟きながら、その辺の石ころを蹴り飛ばす。
するとその石ころは、見るからに厳つそうな男達が乗っていた黒塗りの車の傍に転がった。尚、当たってはいない。
「おいコラ、テメェッ……!! 俺の車に何してくれてんだ!!」
「ゲェッ……!」
俺は不穏な空気をいち早く察知し、走ってその場から立ち去った。幸い、すぐ近くにあった路地裏へと逃げ込んだおかげで何とか難を逃れることが出来た。
◇
「ぜぇぜぇ……ハァハァ……。ちくしょう、マジでツイてないな……。パチンコでは5万負けるし、イカつい人に怒鳴られるしよ……。ほんと、マジふざけんな……っ! 神様はいねーのかよ……!?」
そう嘆いてみるも、そんなものはいないと俺はとうの昔に学んでいた。
10歳の時に両親を亡くしたあの日から。
「おじさん。こんな所で何してんの?」
するとそこへ突然見知らぬ女子が現れ、声を掛けられた。見るからにモテそうな可愛い子だった。
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