第8話

自宅の前に着いた。

 俺は鞄から家の鍵を取り出す。鍵を玄関の鍵穴に差して、回す。その後、ドアノブを掴んで、

引っ張って、家の中に入る。

 入った後、内側から鍵を閉めた。そして、靴を脱ぎ捨てて、階段を降りて、地下室に向かう。

 地下室には朱里の家と同様に精神転送マシーンがある。我が家には一台しかないけど。

 俺は精神転送マシーンの座席に座り、ヘルメットを被る。

「精神をデータ化しています。現在57%」

 機械の声が聞こえてくる。それと同時に意識がどんどん薄れていく。早くしてくれ。零無愛の言っている事を確かめたいんだ。確かめないといけない。

 ――意識が鮮明になっていく。視界のぼやも取れてきた。どうやら、アクティメントに着いたようだ。

 俺は急いで、アメリカ行きのゲートがある方向へ向かう。

 アクティメントに居る人達も普段と何も変わらない。危機感がない。世界中で国が消滅しているって言うのに。まぁ、昨日まで俺もその一員だったから仕方が無い。人間って生き物はきっと自分で体験しないと物事を受け入れる事ができない動物なのだろう。

 アメリカ行きのゲートが見えた。

 俺は一目散でアメリカ行きのゲートへ駆けて行く。しんどいとか足が攣りそうとか言っている暇はない。一分一秒でも早くラスベガスの砂漠へ行かないと。

 アメリカ行きのゲートの前に着いた。

「アカウント審査します。前に進んでください」

 機械の声が聞こえてくる。

 俺は指示通りにゲートの真下に行く。

「アカウント審査完了。門田絽充様。どうぞ、お進み下さい」

 審査が無事終わった。

 俺はそのまま前に進んでいく。すると、突然視界に映る景色が変わった。

 中に浮いている標識には100m先アメリカエリアと書かれている。視界の先にはアメリカエリアのゲートが見える。どうやら、アメリカエリアに繋がる通路に着いたようだ。誰も人はいない。この時間だからかは分からない。それに今はそんな事言っている暇はない。

 俺はアメリカエリア通じるゲートに向かう。

 両側の壁には鉄の網が付けられている。鉄と言ってもデータだけど。破壊させないためのに付けているのだろう。

 アメリカエリアのゲートをくぐる。

 自由の女神やエンパイア・ステート・ビルやメトロポリタン美術館や野球場などが視界に映る。……アメリカエリアに着いたみたいだな。

 白人・黒人・ヒスパニック・日系と様々な人種の人達が歩いている。服装もみんなバラバラ。

それぞれに個性がある。さすが自由の国だ。……いや、感心している暇はない。早く、ラスベガスに向かわないと。

 俺は目を閉じて、「自動翻訳設定ON」と念じた。すると、脳に「設定変更を受理しました」と、機械の声が直接届いた。あとは現実のアメリカのラスベガスに行くだけだ。

 レンタルスペアロイド専門店の位置をアニマで調べる。

 ……検索結果が出た。近くに五軒あるな。一番近くに店のルートのナビゲーションとアニマに入力する。

「ナビゲーションを行います」

 アニマの機械の声が聞こえた。

 俺はアニマのナビゲーションどおりに店の方へ向かっていく。


 目が覚めた。自分の手足を確認する。機械の腕、機械の足。スペアロイドに精神を転送できたみたいだ。あとは精神が癒着出来るまで待つしかない。無理やり動こうと思えば動けるが、

今はそれをするのには得策ではない気がする。それにラスベガスは夜だ。この時間に出歩くのは危険だ。夜が開けるのを待ったほうがいい。

 ――数時間が経った。スペアロイドの身体に精神がなれてきた。それに朝になった。もう動いても危険ではないはず。

 俺はスペアロイドの施設から出て、ラスベガスの郊外へ向かう。

 日本にはない派手なホテルや商業施設が並んでいる。それに当たり前のようにストリートで楽器演奏やダンスが行われている。まさに世界一のエンターテイメントな街だ。まぁ、今の俺にはそのエンターテイメントを楽しむ余裕もなければ暇もない。零無愛が言っていた書物を探さないと。

 街の外に出た。殺風景な砂漠とどこまで続くか分からない舗装された車道がある。それ以外はないと言っても過言ではない。

 どこを探せばいいんだ。遠くに行き過ぎたら、帰って来られなくなる。もう少しヒントをくれてもいいだろ。零無愛って本当に不親切な奴だ。

「ナビゲーションします」と、スペアロイドの施設で借りたアニマが突然言った。何も入力していないぞ。怪奇現象か。でも、これが書物へ案内してくれるものなら従うしかない。

 俺はアニマのナビゲーションどおりに歩いていく。街から離れて行くせいか恐怖心を感じる。けれど、今はその恐怖心に打ち勝つしかない。

「……あった」

 視線の先には表紙が真っ暗な分厚い本が落ちているのが見える。

 俺はその本のもとへ歩み寄り、拾った。本の表紙に付いている砂を手で払い落とし、ゆっくりと開く。

 本には見たことがない文字が並んでいる。どの国の言葉なのか。それとも、古代の文字なのか。何かは分からない。……でも、なぜか理解出来る。何が書いているか分かる。

「世界終焉まであと4日」

 たしかに本にはそう記されている。ここで解読するより、早く自分の身体に精神を戻して、

自宅でしたほうがいい気がする。


 精神が自分の身体に戻った。まだ少し違和感はあるがそんな事気にしている暇はない。

 アニマで時間を確認する。20時54分。もう夜か。何ともいえない一日だ。

 俺は学習机の上のパソコンの電源をつけて、椅子に座る。ディスクトップにはアメリカで本の全てのページをスクリーンショットしたデータが入っているファイルが届いている。実物の本は海外便で送ってもらっている。こんな状況下だ、日本に無事に着くかは分からないが。

 マウスでファイルをダブルクリックする。ファイルの中には何語か分からない言葉が記されている。

 アニマを起動させて、メモ機能を開く。

「……終焉の」

 何語か分からない言語を解読していく。何とも言えない感覚。自分が自分であるはずなの見えない誰かの力を使わせてもらっている気がする。でも、そんな違和感があっても解読しないとこの世がどうなるか知る事ができない。

 ――解読し終えた。記された予言は想像を絶するものだった。

 明日、世界の半分の国が消える。日本はまだ残っているようだ。

 明後日、残った国の半分がまた消える。

 三日後、さらに半分が減る。

 世界最後の日。岩の雨が降り、全てのものは破壊される。そして、23時59分59秒をもって世界は跡形もなく消滅する。

 ……世界が消える。最初は信じていなかった。でも、ここ最近起こった事が完璧に記されていて、信じるしかなかった。それに零無愛が噓を吐く様な奴ではない。どう足掻いても、世界の終焉は免れない。自分の存在がこんなにも無力だと感じた事はない。人間が対処できるのは人間が起こした事だけなのかもしれない。

「木場朱里様からメッセージが来てます」

 アニマが受信報告をした。

「メッセージ閲覧」

「承知しました。メッセージ内容を表示します」

 アニマは空気中に画面を発生させた。画面には「体調は大丈夫」と表示されている。

「音声入力。大丈夫だよ、また明日な」

「大丈夫だよ、また明日なを入力します」

 アニマはメッセージを画面に入力した。入力後、画面にメッセージを送りますか、送りませんかと言う質問が表示された。

「送ります」

「承知しました。メッセージを木場朱里様に送ります」

 アニマが朱里にメッセージを送った。

 ……はぁ。もう寝るか。零無愛と七志は現れないし。まぁ、現れても一方的に何か言われるだけだしな。でも、覚醒ってなんだ。何か特別な力を手に入れる事ができるのか。それで世界の終焉を防げたら、ヒーローになれるのに。なんだか、急に中二病みたいな思考だな。恥ずかしい。いや、防げたらそれはそれでいいよな。

「木場朱里様から連絡が来てます」

 アニマにメッセージが届いた。

「メッセージ閲覧」

「承知しました。メッセージ内容を表示します」

 アニマの画面には「うん。それならよかった。じゃあ、また明日」と表示された。

 ……こんな当たり前の日々がもう4日で終わる。当たり前だと思っていた事がなくなる。怖い。恐怖感が急に芽生えてきた。たまに寝る前に死んだらどうなるんだろうと、考えてしまった時と同じ恐怖感だ。

 椅子から立ち上がって、ベットに向かう。

 何も考えるな。考えたらドつぼにはまる。思考を停止しろ。しかし、そう考えている時点で

考えてしまっている。

 ベットに寝転んで、目を閉じる。無になれ。無にならない。無になれ。無になってくれない。

もうどうにでもなれ。どうせ、人は死ぬんだ。それを受け入れたらいいだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る