第92話 リアルブレイク
逃走に転じた魔女を見て千里は指をパチンと鳴らした。
もちろん、先ほど乗り物にしていたセラフを呼ぶためだ。
だが、なにも起きない。
見上げれば空には、まだ何体ものセラフが飛び回っていて、急降下を繰り返しては地上の騎士達と激闘を繰り広げていた。
空からゆっくりと舞い降りてきた咲梨が怪訝な顔を向けてくる。
「セラフを操れるんじゃなかったの?」
問いかけると千里は悲しげに首を横に振った。
「人がそんなに便利になれるわけ……ない」
「さっきやってたでしょ!?」
繰り返して訊くと、千里は両腕を組んで唸った。
「うーん。さっきはノリでできたんだけど」
「ノリって……」
「なんとなくできそうだと思ったことは、だいたいできるんだけど、今回は疑ってしまったかもしれない」
「前から思ってたんだけど、あなたの特殊能力って一体どういうものなのよ?」
呆れ返った顔で訊いてくる。
「生みの親の言によれば、物理法則を無視するとか、そういったあり得ないことを引き起こす力らしい。とりあえずわたしはリアルブレイクと名づけた」
「いや、名前はどうでもいいけど、物理法則を無視するって、それはもうオカルト……いや、魔法や異能自体がオカルトなんだけど……」
呆れるのを通り越して咲梨は頭を抱えていた。。
「やっぱり、直接的で無骨な名前は受けが悪かったか。
考え込んでいると、突然足下の地面から死体が起き上がってきて叫ぶ。
「お前ら、話し込んでる場合か! まだ戦いが続いてんじゃねーか!」
「カーライルくん!」
咲梨が死体を見て驚きの声をあげる。
「さすがだ、ライライ。ゾンビになってまで世界の危機に立ち向かうとは、お前こそ騎士の鑑」
「ゾンビじゃねえし、ライライでもねえ! カーライル・ライルだ!」
「そんなことをわざわざ主張している場合か? まだ戦いが続いているんだぞ」
「お・ま・えは~~~~~~っ!」
なにやら地団駄を踏んで悔しがりながらも、ライライ――カーライルは剣を片手に駈け出していった。
キーア・ハールスの魔法をまともに食らって、マントは消し飛びプロテクターもボロボロだったが、本人は大きな外傷もなく元気そうだ。
「千里ちゃん、わたし達もいくわよ。まずは残りのセラフを片づけましょう」
咲梨の言葉に従って千里も走り出した。
全力で戦うのはもちろんのことだが、常に手加減して戦うというのも神経を磨り減らすらしく、咲梨は見るからに疲れた様子だったが、さすがは正義の味方を自称する部長だ。泣き言一つ言わずに魔法によって再び宙に舞い上がると、凄まじい砲撃を連発し始めた。
カーライルと千里もそれぞれの得物を手にセラフを斬り刻んでいく。
生き残りの敵は少なくなかったが、すでに戦いの趨勢は決している。
ここでの戦いはもはや人類の勝利で揺るぎなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます