第58話 戦い終わって
ダリアはやや離れたところから、地球防衛部の戦いを見つめていた。
「戦闘用人造人間でさえ手を焼くセラフを見事に撃破したか……」
身体の各部に損傷を負い、二次装甲はボロボロだったが、本体の損傷はナノマシンによって自動的に行われるはずだ。
ゲートも閉じてしまったため、ひとまずはどこかに潜伏するしかない。
「それにしても、なぜセラフが……」
これまでセレナイトは神獣の脅威にさらされていなかったが、いつそうなっても不思議ではない状況にあった。
だからセラフの襲来はじゅうぶんにあり得る話だ。
不可解なのは、それがゲートを通って、こちらに出てきたことにある。
「セレナイトは無事なのか……?」
ゲートがすぐに閉じなかったのも気になるが、ここで考えても答えは出そうにない。
「フッ……待っていても助けが来るとも思えないが」
自嘲気味に呟くと踵を返して歩き始める。
数歩進んだところでダリアは一度だけ立ち止まって後ろをふり返った。視線の先には千木良華実の姿がある。
無言のまま見つめたあと、小さく頭を振ると再び歩き出し、そのまま闇に紛れて姿を消した。
レジナルド配下の騎士の被害はひどいものだった。
かろうじて勝利したものの、戦いに参加した二十名あまりのうち、五体満足なのはふたりだけ。重傷者を含めても生存者は五名だった。
すでに救護班が到着して、負傷者の手当にあたっているが、想像もしていなかった結果にマーティンが苦々しく唇を噛みしめている。
「あなたのせいじゃないわよ」
いつの間にか隣に来ていた真夏がマーティンの肩を軽く叩いた。
「師が矢面に立てば、こんな結果にはならなかったはずだ。どうして彼は部下を顧みないような人になってしまったのだ……」
「わたしが追い詰めてしまったのかもしれないわね」
慰めるように真夏は言ってくれたが、もちろん彼女のせいであるはずもない。
「人は変わるものです。良くも悪くも」
北斗もまた、若かりし頃のレジナルドの噂は聞いているのだろう。
「私はこうはならない。他なら我が師が反面教師となってくれたのだ。だから、私は理想の騎士として晩年を迎えてみせる」
「あんまり気負うと疲れるわよ」
気づかいの言葉をかけてくる真夏にマーティンは弱々しく微笑んだ。彼女の藍色の瞳にはやさしい光が宿っている。
「君は強いな。剣の腕だけではなく心が」
「わたしはただ、意地を張ってるだけ」
どこか意味ありげな笑みで答えると、真夏は背を向けて千里の方へと歩いて行った。
マーティンの傍らには火惟と希枝が座り込んでいて、希枝の方は震えているようだった。
「大丈夫か?」
疲れた顔をしているが、火惟が発する声はやさしい。
「すみません、後から急に……。
「ああ、あんなのひとりじゃどうにもなんねえぜ」
「うむ」
偉そうに腕など組んで千里がうなずく。
「お前はひとりでやっちまっただろ」
「咲梨が撃墜した隙を突いただけ」
謙虚なのかノリで喋っているのか、その微妙な顔からは判断がつかない。
そんな若者達のやり取りに、マーティンは救われるような気持ちになった。
レジナルドが失い、マーティン自身も一度は見失いかけていた人の心の輝きが彼らにはあるようだ。
少し離れた場所では咲梨と華実が真剣な顔で話し合っている。
「やっぱり魔法ね、あのゲートは」
「でも、セレナイトはコンピュータよ。それが魔法なんて……」
「コンピュータとは言っても魂があるんでしょ。人工霊魂だっけ?」
「ええ……。でも、生命でないものに魔法が使えるのかしら?」
「分からないわね」
咲梨は天を見上げてお手上げという顔をする。
「ゲートを開く方法は判ったのか?」
マーティンが質問すると咲梨は少し考えてから答えた。
「開くことはできると思うけど、闇雲に開いても目的の世界には行けないわ」
「座標が必要ということか?」
「そんな感じね」
うなずいたあと咲梨はやや黙考してから続ける。
「とりあえず、この世界には戻れるようにしておくから、次にゲートが開いたなら、それを辿って乗り込みましょう」
「危険な気もするが、他に手はなさそうだな」
納得してマーティンはうなずいた。
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