第5話 ルーキーコンビ

 大羽おおば火惟かい泉川いずみかわ希枝きえは地球防衛部の新一年生ルーキーだ。

 幼い頃にテレビのヒーローに憧れて正義の味方になるという大望を抱いた火惟は、他の多くの子供たちがそうであるように年を経るとともに、ああいうのは子供騙しであると気づくに至った。

 ただ、火惟が他の子供たちと違っていたのは、それではどのようにすれば子供騙しではない現実の正義の味方になれるのかと考え続けたことだ。

 実際いろいろあって一時はあきらめかけたこの夢を繋いでくれたのは故郷の親友と、今はもうどこにいるのかも分からない幼なじみの女だ。

 親友とも転校して離ればなれになってしまったが、その友情は今も変わらず続いている。

 同じく一年生である希枝とは地球防衛部の部室を探しているときに偶然出会って以来のつき合いだ。

 小柄で細身な希枝は顔つきも愛らしいのだが、基本的に無表情でどこか人形めいた印象を受ける。部室まで火惟についてきて、そのまま入部したが、入部の動機等は一切不明だった。

 しかし、見た目に寄らず地球防衛部員としての活動は熱心で、部長である星見咲梨が造り出した金色こんじき大金槌ハンマーを軽々と振るって、危険な怪物を容赦なく粉砕する。

 火惟もまた金色の籠手ガントレットを使って何度かの実戦を経験していたが、希枝のことは背中を任せるに足る戦友だと感じていた。

 咲梨と彼女が造り出した金色の武器との出会いによって、今では魔力を限定的ながら操ることができるようになっていて、術の類いは使えないまでも身体能力を飛躍的に高めることが可能になっている。

 だが、それでも強化後の能力は基礎体力に大きく左右される。だから火惟は常日頃から、身体を鍛えていた。在校生のほとんどが断念する自転車での完全登校もその一環だ。

 なにせ彼の通う陽楠学園は小高い山の上に位置していて、そこに至る道のりは当然ながら延々続く上り坂となっている。

 そのため、自転車通学生のほぼすべてが、そこを自転車で上るという愚を犯すことなく、ちょうど麓に位置する駅前の駐輪場に自転車を預けた上で徒歩によって坂を上っているのだ。

 それほどまでにキツイ坂道を、火惟は毎日のように自転車に乗ったまま汗水垂らしながら上っている。

 近頃は麓で希枝を後ろに乗せるのが定番になっていて、トレーニング効率はさらに増していた。


「さすがにこの季節はキツイのではないですか」


 終業式のこの日、めずらしく希枝の方から火惟に話しかけてきた。相変わらず無表情のままだが、夏の暑さを気にして心配してくれたようだ。


「平気平気。俺はまだまだ強くならねえといけねえんだからさ」


 笑い飛ばすように歯を輝かせて答える。


「火惟はもう、十分に強いと思いますが」

「部内じゃ最弱だぜ?」

「いや、わたしよりは……」

「それに、弱くて困ることはあっても強すぎて困ることはないだろ?」

「……そうですね」


 小さくうなずいてから希枝は、いつものように荷台に横座りで乗った。

 それを確認して火惟はペダルを漕ぎ始める。

 この長い坂道を上るのは、いつも一苦労だったが、だからこそ上り甲斐があって達成感も得られる。それに下校時には長い下りを風を切って進むことになり爽快だ。その瞬間のためだけでも、ここを上る価値はあるように思えた。

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