第11話

10月22日。

 二つの事件は何の進展もない。亜砂花さんと古道さんは他の事件に当たりながらも二つに事件も捜査している。

《デビル・イーター》の製作は6割程度進んだ。ようやく完成が見えてきた。ここから猛一段階ギアを上げていかないと。ここで躓く可能性がある。

 俺と桃愛は明日誕生日の真珠にあげるプレゼントを買う為に南エリアにあるアウトレットに来ていた。

 この前の件もある。いいプレゼントをあげないと。反省と日頃の感謝を込めて。恥ずかしいから絶対に言わないけど。口が裂けても言わないけど。と言うか、口が裂けたら痛くて何も話せないよな。そんな事どうでもいいか。

 桃愛は花柄のブラウスにブルーデニムのワイドパンツを着ている。靴は黒色のホールシューズ。これは桃愛のセンスじゃないな。だって、桃愛はジャージでどこでも行けるタイプの人間だから。この前、真珠と服を買いに行ったって言ってたな。その時に買った服だろ。

「何ジロジロ見てるのよ。エッチ」

 桃愛は胸の前で腕を組んだ。

「エッチじゃねぇよ。服似合ってるなぁって思っただけだよ」

 何でお前の脳はそう言う方向で捉えるんだ。エロい漫画を描きすぎなんだよ。でも、健全な漫画も結構描いてるよな。これは俺をからかっているだけなのかもしれない。

「それは失敬。まぁ、これを選んでくれたのは真珠ちゃんだけどね」

 やっぱりそうか。考えは的中していた。

「そっか。真珠のファンションセンスも凄いけどさ。それを着こなしてる桃愛も素敵だし。可愛いと思う」

 ここは二人を褒めないと。事実だし。12歳上と7歳上と3歳上の姉ちゃんがいてよかった。ここで何も言わなかったら怒られるんだよな。たしか。

「……あれ、ちょいやばかった」

 桃愛は顔を赤らめた。

「どうした?」

「な、なんでもない。真珠ちゃんの誕生日プレゼント買いに行こう」

 桃愛は明らかに話を逸らした。

「そうだな」

「それで何を買ってあげるの」

「ゲームはたぶん色んな所でもらってるだろうし。財布とか自分が変えたいタイミングで買うだろうから。ネックレスやイヤリングとかがいいかなって」

 姉ちゃん達が男の人に誕生日プレゼントをもらった時に愚痴を言ってなかったのはアクセサリー系だったと思う。我が家の姉ちゃん達だけなのかもしれないけど。 

「お、結構考えてるじゃん。それで良いと思う」

「そっか。それじゃ、アクセサリーを買いに行こうぜ」

「りょ。行き当たりばったりで店に入ろう」

「お、おう」

 桃愛はどこでも変わらないな。海外に行っても、日本語で押し通して友達作れるタイプの人間だな。

 俺と桃愛は一番近くに見えるアクセサリーショップ「ヴィナーレ」に向かう。

 桃愛と二人で買い物に来るなんて久しぶりだな。こう言う洒落た所に来た事はないけど。

ゲームショップとか100年以上前のゲームの攻略本専門店とかばかりだな。

 アクセサリーショップ「ヴィナーレ」の傍に着いた。

「遊ちゃん。どっちが先に入る?」

「お、俺が入るよ」

 二人とも洒落た店に入るのは慣れていない。なんと言うか、序盤に終盤エリアに向かうエリアに入るぐらい無謀な感じがする。

「た、頼みましたで」

「き、気合入れていくよ」

 俺は深呼吸を一度してから、アクセサリーショップ「ヴィナーレ」の前に行く。

 自動ドアが開く。

 大丈夫だ。ここはゲームの世界じゃない。現実世界だ。レベルと言う概念もないし、ゲームオーバーもない。

 俺はアクセサリーショップ「ヴィナーレ」の店内に入った。

「いらっしゃいませ」

 美人な女性店員が笑顔で挨拶してきた。

「ど、どうも」

 つい軽く会釈をしてしまった。これじゃあ、小物感が出てしまう。自信を持って振舞わないと。この店の雰囲気に負けてしまう。

 店内には女性もののアクセサリーが棚に並んでいる。

 ど、どれがいいんだ。てか、桃愛はまだ店に入って来てないのか。

 俺は振り向いて、入り口の自動ドアを見る。

 自動ドアが開いた。

 桃愛は忍者のような俊敏さで俺の背後に隠れた。

「侵入成功」

「お、おう」

 ここは侵入が難しいダンジョンとか施設ではないぞ。ただのアクセサリーショップだ。俺達が慣れてないだけで。

「い、いらっしゃいませ」

 美人店員は驚きながら言った。

「ネックレスはあっち」

 桃愛はネックレスコーナーを指差した。

「わかった」

 見れば分かると言いたい所だけど、桃愛も慣れない店で頑張っているんだ。

 俺と桃愛はネックレスコーナーへ行く。

 棚には花の形をしたネックレスや動物の形をしたネックレスが並んでいる。

「どれがいいのかな?」

「うーん。真珠ちゃん。あー見えて、かっこいい系より可愛い系の方が好きだもんね」

「そっか。じゃあ、可愛い系探さないとな」

 出来るだけ早く探さないと。あの美人店員に話しかけられたら二人ともパニックになりそうだから。

「だね。二人でそれぞれいいと思ったやつ選ぼう」

「そうだな」

 俺はゲームを買うときみたいに真剣にネックレスを見る。

 この風船を持ったテディベアのネックレスいいな。でも、この折り鶴のネックレスもいいな。……犬のバルーンアートみたいなネックレスがある。それも水色だ。これがいい。これなら真珠も文句言わないよな。

「遊ちゃん決まった?」

「決まったよ」

「せーので指差そう」

「おう。いっせー」

「のーで」

 俺と桃愛は二人とも水色の犬のバルーンアートのネックレスを指差した。

「お、一緒じゃん」

「遊ちゃんもそれがいいと思ったんだ」

「じゃ、これにするか」

「うん。いや、ちょっと待って。他の店も行ってみよう。それでも、これがよかったらこれを買おう」

「そ、そうだな。誕生日プレゼントだしな」

 現段階ではこれが第一候補だ。他の店にも行って色々と見ないと。そうじゃないと、誠意が足りないよな。ちゃんと悩んで買った事にならない。


 アウトレットをあとにして、レトロゲームショップ兼古本屋「ノーランアタリー」に向かっている。

 アクセサリーショップを何軒も回ったが、結局最初の店で見つけた水色の犬のバルーンアートのネックレスにした。

 美人店員さんに誕生日プレゼント用に梱包してもらった。

 二人ともお洒落に対するレベルが2、3レベル上がった気がする。

「よかったね。誕生日プレゼント買えて」

「そうだな」

「次は私達の主戦場に行くわけだね」

「おう。もう緊張する事はない」

 なんでだろう。自然と自信が湧いてくる。自分達が得意と言うか好きなものがある場所だからかな。

 レトロゲームショップ兼古本屋「ノーランアタリー」が見えてきた。店の窓には色々なゲームのポスターが貼られている。その中には「コントラクト・ヒーロー。エフェクトカード新作入荷」と書かれたものもある。

 エフェクトカードは今あるやつだけで充分だけど。あとでちょっと漁ってみるか。エフェクトカードだけはモンスターや武器とは違って買わないと種類が増えないし。

 俺と桃愛はレトロゲームショップ兼古本屋「ノーランアタリー」の店内に入る。

 ゲーム好きの大人達や子供達が店を賑わしている。

 一階はゲームコーナー。二階はゲーム攻略本コーナー。どっちから攻めてもいいな。

「あーイマジネーションが湧いてくる」

 桃愛のテンションが高くなっている。先程ほどまで居たアウトレットとは段違いで違う。

やっぱり、慣れている所だったら、素の自分で居られるんだろうな。

「それはよかったな」

「集合時間決めて、落ち合うってドウ」

「おう。そうしよっか」

 語尾がおかしかったような。まぁ、そんな事は気にしない方がいいな。

「あざっす。じゃあ、何時にする?」

「今、15時だから。2時間後の17時でいいか」

「うん。それでOK」

「じゃあ、17時にここに集合。では解散」

「さらばば」

 桃愛は最高速の速度で歩いて、ゲームコーナーへ向かって行った。決して、走ってはいないから店員さんには注意されないだろう。

 俺は階段を上って、二階の攻略本コーナーへ行く。

 二階には100年前以上のゲームの攻略本や現在発売されているゲームの攻略本などが

棚にびっしりと敷き詰められている。

 適当に手に取って選ぶか。それはそれで楽しいけど。でも、あの人のゲームの攻略本を探してみよう。響野祥雲のゲームの攻略本を。

 響野祥雲のゲームの攻略本コーナーへ行く。

「やっぱり、えげつない作品数だな」

 響野祥雲が発表した作品は1000作以上存在する。それに伴って、攻略本も1000冊以上ある。だから、1人のクリエイターなのにコーナーが出来てしまう。

 俺は棚から《シンデレラ・ハーレム》の攻略本を手に取り、読み始める。

 桃愛が言っていた通りクソゲーだな。あの必殺技を使えば攻略可能なんだから。でも、パスワードで出現できる姫ってどんな姫なんだろう。見て見たいな。

 他の姫の名前はルージュ姫、アスール姫、ノラン姫、ベルデ姫、ヴィオレ姫、アルブム姫、ローズ姫、マロン姫、ネイビー姫、ラランジャ姫、セリィ姫か。色の名前ばかりだな。

それも国も何もかもばらばらじゃないか。

 それにしても、藤間秋也のコンピューターに映っていた響野祥雲のマークはなんだったのだろうか。現段階では全く答えが出せない。響野祥雲が事件の黒幕じゃない事だけを祈る。そして、藤間秋也の意識が戻る事を切に願う。

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