自動人形にTSさせられて愛玩される人形になった僕の理由
マロン64
マリとの別れ
「お姉ちゃん、夜ご飯が出来上がりましたよ」「オイルは嫌だ、オイルは……」愛玩人形のマリは今日も甲斐甲斐しく世話をする。今は2199年10月8日の夜8時を回った頃である……はずだ。奈緒はもう人間だった頃の記憶が曖昧になっていたよ。
「お姉ちゃんの体のチューニングのためのオイルが足りておりません。規定量のオイル量まで3リットルのオイルを飲み干していただかなくては……」僕の夜ご飯……というか動くための燃料は自動人形の主要燃料であるヒューマ・オイルだ。
僕はもう有機食料を食べて生きる人間ではないらしい。もういつまで人間だったかさえ記憶が怪しい。体を自動人形に変えた張本人のマリを恨みを込めて見るが、それをあっさりとスルーさされる。いつものような笑顔を見せるマリは見た目だけで言えばメイド服が相応しい、目元がぱっちりとした可憐な美少女だ。
なんでこんなことになったんだろう……僕はハッと思い立った。日記を書いていた記憶があるんだ。それを見れば、僕に起きたことがわかるかもしれない。
「僕の書いた日記を見せてくれ……」僕は懇願するようにマリに言った。「良いですよ……私たちの愛の歴史を刻んだ大切な日記ですものね。毎日欠かさず見たくもなるでしょう」マリはうっとりした表情になりながら日記を取ってきてくれた。
「毎日……?何を言ってるんだ、日記を見るのは今日が初めてだよ」「すみません、お姉ちゃん。そうでしたね。では日記を取って参ります」
僕は完全に自動人形になってしまったオイルが血管のように脈打つ手で日記を手に取った。この日記は愛しい妹のマリを失ってから書き出したものだ。どうしてあんなことになったのか、いまだにわからないけどマリは元々……
日記は僕が書いていたものにマリが肉付けしたものだ。タイトルもマリが勝手につけたものである。
日記 お姉ちゃん《お兄ちゃん》との愛の歴史
21世紀末期に感情を持たない自動人形が開発されました。自動人形とはヒューマ・オイルを燃料に活動する機械で出来た人形です。人間の皆様は自動人形に家事や買い物を任せて自分たちは仕事や趣味をするといった役割分担をして共生してしていました。
お姉ちゃんは自動人形を最初に開発した科学者です。いやその頃は『お兄ちゃん』でしたね、フフフ。お兄ちゃんはわた、いえ唯一の家族であった妹のマリ様を無くされ、大層悲しみに沈んでおられたとのことです。これはお兄ちゃんが科学者を志す20代の頃からのお話です。
ここにその記述があるので、読み上げていきましょう。
2188年1月8日
マリを失った日
マリは20歳になった誕生日の夜に、突然首吊り自殺して亡くなった。僕は次の日の朝、部屋から中々起きてこない妹を心配して見に行ったんだ。笑顔で亡くなっている妹の死体を見て、僕は嘔吐と嗚咽を抑えられなかった。
急いで救急車を呼んだが、無言で首を振る救急隊の人に姿をみて、僕は崩れ落ちた。こうして唯一の肉親だったマリを失った。
今日は最愛のマリを亡くした日で人生で最も空虚な日となった。マリはなんで自殺したんだろう…… 遺書はあったが意味がわからなかった。内容は『お姉ちゃんと出会う未来のために……』という一文だった。マリが何を考えていたのか、なぜ自ら命を絶ったのか、僕には理解できていない。
『ああ、今ならわかる……マリが何故自殺したのか、彼女が何をしたかったのか理解できる。』日記を読んでいる僕は全てを悟ったように呟く。
『私はお姉ちゃんにまた会えると信じて不完全な肉体を捨てる事にしたのです。その事を教えてくれたのは親切なあの方でした。』その言葉に反応して、マリはとても幸せそうな顔で花のように笑って言った。
何もやる気が起きない…… 妹は僕のことが大好きと言いながらも「お兄ちゃん」が「お姉ちゃん」だったらよかったのに! とよく冗談を言う妹だった。今となってはたまらなく大事な家族だったんだと感じる。
現代日本は少子化対策と銘打って子供をとにかく大人に作らさせる法案がまかり通っていた。その法案のせいで子供を大量に作って捨て子にするなんて親も多くいる。僕達はそのパターンで捨子になった孤児だった。
本当は家族なのかも定かではないが、同じ日に孤児院の前に捨てられていたことや顔の特徴やふとしたときにする仕草が似ていたことから双子ではないかと判断されて、僕が兄でマリが妹ということになった。
だけど何故かカップルに間違われることも多かったんだ。僕とマリは何をするにも一緒で、お前ら付き合ってんのか! と周りにからかわれることが多かった。
今は後悔しているが、周りにからかわれることを嫌がった僕はマリを遠ざけ、一緒に遊ぼうと寄ってくるマリを邪険にしたりした。「お兄ちゃん、なんで遊んでくれないの?」「僕はお前の彼女じゃないんだよ! もうからかわれるのはうんざりなんだ。お前は1人で向こう行ってろ!」
思えば子供の天邪鬼な非情さが出ていたのだろう。「なんで遊んでくれないんだろう……お兄ちゃんのこと好きなのに……」マリはこの頃から1人で考え込むことが多くなっていた。
ある時孤児院に、親切なお金持ちの社長が大量のスポーツ道具と綺麗な人形を寄付してくれた。12歳になっていた子供達のうち、男の子はキャッチボールやサッカーに夢中になり、女の子は人形遊びをするようになった。
『この社長とマリの手のひらの上だったのだろう。どこまで考えてこの未来をイメージしていたかわからないが、社長とマリは文通をしていたようだ。』
孤児院の子供達は簡単な読み書きと計算しか教えてもらえない。いつも田んぼや畑で自分たちが食べる米や野菜を育てるのが一番大事なことだった。
21世紀後半では、あえて十分な教育を受けさせない層を作ることによって、その層に農業や漁業に従事させ、第一次産業を衰退させないという政策が日本で取られていた。
孤児院の子供達はこの政策の餌食にされていたため、21世紀末期では運動や人形遊びは幼い子供のすることだと馬鹿にされていたが、その傾向を知らない孤児院の子供達にはスポーツや人形遊びは大受けだったのである。
僕とマリはお互いスポーツや人形遊びに夢中になり、更に一緒に遊ぶ時間が減った。ある時マリと親しい女の子が僕に妙なことを教えてくれた。
「あのね、マリちゃん、他の女の子と遊ぶときに変なこと言うんだ」「なんて言うの?」「可愛い金髪の女の子のお人形さんを『お兄ちゃん』て呼んでるんだよ?」「なんでそう言ってるか聞いたの?」「それがね……教えてくれないの。お兄ちゃんにしか言わないって言ってるの」
僕は子供ながらの勘でこれは聞かなきゃいけないことだと思ったんだ。だけど僕は聞かなかった。正確にはキャッチボールやサッカーが楽しくてマリの事は放っておいてもいいんだと思っていた。僕は馬鹿すぎるくらい子供だったんだな。
『この時マリの言いたいことを聞いていればこんなことにはならなかっただろう』この時だけは日記を読んで呟く僕を憐れむような笑顔で「マリ」は見ていた。
そういえば一度だけマリと人形遊びをしたんだ。だけどその時の記憶が何故か曖昧なんだ。ただ一緒に遊んでいるマリはごっこ遊びなのに本当に真剣で心の底から楽しそうだったんだ。
確かあの時は親切なお金持ちの社長もその場にいて僕たちが遊んでいるのをにこやかに眺めていた気がするな……何だったんだろう。
なんで子供の頃の思い出をこんなに書いているんだ。わからない、この先どうすればいいかわからないよ、マリ……
『この頃のお姉ちゃんは本当に意地悪だったんです。だから私もお姉ちゃんに意地悪するって決めたんです。でもあの時のお姉ちゃんだけはよかったですよ?』日記を読んでいるマリは過去を懐かしんでいるようだった。
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