第10話 ギルドの扉はめちゃくちゃ重い
馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
010:ギルドの扉はめちゃくちゃ重い
ギイイイイ……
ギルドの扉は思いのほかに重く、でも、重そうに開けては中に居る冒険者やギルドの受付たちに軽く見られてしまうと思って、ポーカーフェイスで押し開けるアルテミス。
半ばまで開けると視界の端にベロナも押しているのが分かる。
ザワ
昼時の学食を思わせる殺気だった賑わいの中、冒険者やクエストの依頼人、ギルドのスタッフたちの視線が集まる。
半ばは意外そうな、半ばはバカにしたような目だ。
一瞬たじろぐ二人だが、みんなかかずらってはいられないという感じで、クエストの張り紙、ステータスアップの手続き、ドロップアイテムの査定や買取、苦情の処理などに忙しい。
「目がキョドってますわよ(^_^;)」
「そう言うベロナも手が震えてるぞ(-_-;)」
「ええと……」
「フーー まずは登録だな」
一つ深呼吸をして登録の窓口に向かう。
「窓口、二つあるわ」
「あ……初回登録の方かな」
「でしょうね」
自分たちと歳の変わらない若者や自分たちの不向きを悟って転籍したい中年たちが並んでいるBの列に並ぶ。
隣りのAの窓口は遠くからやってきた冒険者たちで、すでに持っているランクやステータスをこの街の表記に切り替えに来ているベテランたちだ。
窓口から一メートルほどは仕切りを兼ねた観葉植物が置いてあるが、A列からの圧はハンパではない。ベテランとルーキーの違い以外にも、この街の冒険者たちへの侮蔑や揶揄が感じられる。
――クソ、こいつら舐めてやがる――
ムカつくアルテミス。
――でも、保険やら年金があって、インフラやら老後の生活に目が向いているんだから、外からは軟弱に見えるんでしょうねえ――
こないだまで生徒会長をやっていたベロナは冷静に分析する。
「お次の方ぁ」
眼鏡っこの受付が笑顔で応対してくれる。
「初めての方ですね、スキルとステータスを伺ってもよろしいですかぁ」
「ええと、学生証でいいか?」
「ええと……卒業証明書と単位取得証明などはお持ちではないのでしょうか?」
「あ、それは」
「あ、まだ在学中なんですかぁ?」
「うん」「はい、そうです」
「少々お待ちください」
眼鏡っこは後ろの課長に伺いに行った。
「次の方、先におうかがいしまーす」
バレッタで髪をまとめたのが次の受付を始めてしまう。
――学生?――わけありか?――段取り悪ぅ――弱そう――生意気そう――
揶揄やら馬鹿にしたのやら物珍しげな眼が突き刺さって来て居心地が悪い。
「クソぉ」
「ここは辛抱ですよアルテミス(^_^;)」
なだめるベロナの目も引きつっているが、さすがにアルテミスは突っ込まない。
「お待たせいたしましたぁ」
眼鏡っこがバレッタの横から体を斜めにして書類を見せる。
「ええと、曙の谷のあたりに初級のモンスターが出ますので、取りあえずそれを狩ってきていただけますか? その成果でスキルとステータスを決定する運びになります。よろしいでしょうかぁ?」
「あ、ああ」
曙の谷は広場でも聞いた。大したところではなさそうなので小さく頷く二人。
「それでは、魔石とかドロップアイテムがありましたらぁ、必ずお持ち帰りください。それを元に査定いたしますのでぇ」
「おお」「承知しました」
「ええと、前衛はどうなさいますかぁ?」
「前衛?」
「お見かけしたところ、アーチャーとメイジ(魔法使い)のようにお見受けするんですが?」
「ああ」
「だとしたら、近接防御の戦士とか剣士が必要だと……あ、腕に覚えがおありなら構わないんです。まあ、曙の谷ですからぁ(^_^;)」
聞こえたのか眼鏡っこの応対で想像がつくのか、フロアーの半分ほどがクスクス笑う。
「お、おう、なんとかする」「はい」
「そうですか、では向こうの窓口で冒険者保険をおかけになってからお出かけください……」
もう少し話したそうにしていた眼鏡っこだが、バレッタと次の登録者に押されて消えてしまった。
「そうだ、学校で用意したガードがいるって教頭先生がおっしゃってなかったかしら?」
「あ、そういや……ギルドに行って登録のついでに確認しなさいとか言ってたなあ」
「登録のついでなら、ここだなあ……」
「どこに居るんでしょう……」
――ここだ――
直接頭の中で声がして、振り返ると柱の横にドアーフの戦士が見えて、ビックリする二人だった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
アルテミス 月の女神
ベロナ 火星の女神 生徒会長
カグヤ アルテミスの姉
マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
アマテラス 理事長
宮沢賢治 昴学院校長
ジョバンニ 教頭
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