第2話 原級留置告知式・2

馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》


002:原級留置告知式・2 






――こ、これが講堂?――


 

 入学式以来久々の講堂に入ると、その内部は入学式の時よりもさらに広くなっていて、一階席も二階席も星々のスピリットでいっぱいだ。よく見ると入学式には無かったはずの三階席もうっすらと見えて、そこにも鈍く光るスピリットたちがひしめいている。


 壁や天井には銀河をモチーフにした壁紙や装飾があったはずなのだが、それはVRの3D映像のように立体的になっている。

 あたかも、講堂の内部が銀河宇宙の中に放り出されたように幻想的な広がりを持っているのだが、留年の申し渡しに呼ばれたと思っているアルテミスは悪い冗談としか思えなかった。


 同じ留年生のベロナが入学式の時と同じようなアルカイックスマイルで表情が読めないこともアルテミスをいら立たせる。


 舞台の上には入学式と同じ演壇が置かれて、少し後ろには演壇を挟むようにして審査員席のような裁判官席のような壇が設えられている。


 舞台の下には、四人分の椅子が置かれていて、真ん中の二つには『留年生席』、両脇の二つには『付き添い者席』の文字が点滅している。


 講堂の内扉から留年生席までの通路は銀河鉄道のホームの端から端ほどもあって両側は物見高い星々の、つまりは学校の生徒や教職員やPTAのスピリットたち。十字架こそは背負っていないが、まるでゴルゴダの丘に登るキリスト、とんださらし者だとアルテミスはさらに不機嫌になる。


 威風堂々?


 ベロナの呟きで、静かに流れているのが入学式の時と同じエルガーの行進曲だと気づくが、機嫌の悪いアルテミスには入学式から今までの学校生活をチャラにされたような気がして面白くも有難くもない。


 え?


 座ってから小さく驚いた。


 席は『留年生席』『付き添い者席』とあるだけで区別が無かった。それが、戸惑うことも迷うことも無く、左からカグヤ・アルテミスとベロナ・マルスと並んで座った。


 些細なことだが、こういう自分の意志以外の何かに導かれているのは面白くないアルテミスだ。


 スルスル


 子供向きアニメのような音がして舞台の端にマイクがせり上がってきた。司会者が出てくるのかと思ったら、さっきまで前を歩いていた宮沢校長だ。


 入学式じゃ、教頭のジョバンニが立って司会をしていた――ということは、演壇にはもっとエライやつがくるのか?――とアルテミスは思ってキョロキョロ。


「始まるわよ(^_^)」


「分かってる(-"- ) 」


 ベロナの一言はやっぱりムカつく。


「ただ今より、本年度昴学院高校の原級留置告知式を挙行いたします。一同、起立」


 ザザ


 何万人いるんだろうというぐらいの音がして会場の全員が起立。さすがに緊張する。


 いつの間にか演壇後ろの席には二年生担当の先生たちが神妙な顔で立っている。


「礼」


 ザワ


「着席」


 ザザ


「本年度原級留置を申し渡される者、月のアルテミス、火星のベロナ、起立」


 ザ


「それでは……あ……」


 演壇に振ろうとしたら、誰も居ないことに気付いて焦る校長。


 シャララ~~ン


 するとメルヘンなエフェクトをさせながら天女のような人が客席の後ろの方からシズシズと舞い降りてきた。


 胸ポケットからハンカチを出して汗を拭く校長。


 ギリギリまで畑仕事をしているからだと思うアルテミスだが、さすがに口にはしない。


 捻った首を戻す時に上を向いたベロナの顔を美しいと思う。瞬間ベロナと目が合って反射的にムッとしてしまう。ベロナはニコッとして、もう一つムッとしてしまうアルテミス。


「アマテラス理事長より原級留置の申し渡しとお言葉をいただきます」


 校長が紹介すると、それまでのにこやかな笑みを引っ込めて、理事長は無慈悲に宣告した。


「月のアルテミス……火星のベロナ……両名に本年度原級留置を申し渡します」


「「ハ、ハイ」」


 さすがに緊張して上ずった返事になる二人。


「ここからは座ってもらってかまいません……本校数百年ぶりの原級留置、簡単に言えば留年、落第です。従来ならば、新二年生の中に入って新たに二年生をやってもらうのですが、校長先生や学年の先生方とも協議して、本年度はやり方を変えます」


 え?


 ええ?


 意外の声は二人の留年生だけではなく、講堂の全員から起こった。


「昴学院建学の理念は、よりよい銀河宇宙の発展に寄与するスピリットの養成にあります。明日の銀河世界のために二人には特別の使命を帯びてもらいます」


 特別の使命……?


「月のアルテミス、火星のベロナ、あなたたちは母星の運命を知っていますね……どうですか?」


「「はい」」


 これには頷かざるを得ない。めったに聞くことも口にすることもないのだが、月と火星には運命がある。星としての誕生した時からの抗しがたい運命が。


「あなたたちの留年は、その運命に果敢にも抗うための志があってのことと、このアマテラスは理解しています。だからこそ使命を与えます」


 アルテミスは後悔した。ベロナに誘われて「もう一年気ままな二年生ができるなら」と留年したのだが、特別な使命があるなどとは思ってもいなかったのだ。


 参列の星々やスピリットたちも何事かと息を潜めている。


「バカにつける薬を探す旅に出てもらいます!」


 え…………?


 あまりに意外の使命に式場のほとんどのものが言葉を失ってしまった。


 


☆彡 主な登場人物とあれこれ


アルテミス          月の女神

ベロナ            火星の女神 生徒会長

カグヤ            アルテミスの姉

マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神

アマテラス          理事長

宮沢賢治           昴学院校長

ジョバンニ          教頭

 

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