間話 暗闇の冬

 分かっている。これは、自分の罰なのだと――。

 

 一寸先すら見通せない暗闇の雪原を、袴着はかまぎの朱鷺常はひとり黙々と歩いていた。

 容赦なく吹き付ける横殴りの雪に体温を奪われながらも、寒さを紛らわすように前へ進んでいく。

 『寒い』と口にしたところで冷えた体が温まるわけではないし、誰かが温めてくれる訳でもない。

 漠然ばくぜんと淡い希望を抱けば余計に苦しむだけ。

 それを理解しているから、朱鷺常はどれだけ体が凍てつこうと何も感じぬよう無心むしんでいることに努めた。

 

 ――醜い■め!

 

 忌々しげな声と共に、暗闇から老若男女ろうにゃくなんにょが現れる。

 麻で作られた衣服や、兵士と思しき甲冑の姿は"極東"にいた人たちだ。

 畏怖いふ憎悪ぞうお憤怒ふんぬや軽蔑。

 人々が向けてくる眼差しに、それらの感情がにじむ。

 

 ――人の形をした怪物め。

 

 声は消えない。

 幻影だと分かっていても、人々の非難が暗闇と雪に閉ざされた空間に響きわたる。

 

 ――なんでお前のような存在が生きているんだ!

 

 朱鷺常は奥歯を噛み、ただ静かに心の中でつぶやく。

 分かっている。拙者が化け物であることなど……。

 だから、申し訳ない。

 命を奪って、申し訳ない……。

 

 ――消えろ! お前のような⬛︎に生きる場所なんてない!

 

 分かっている。分かっている……。

 誰からも、死を望まれていることを……。

 申し訳ない……。

 生きてしまって、申し訳ない……。

 

 闇と雪に閉ざされた世界をひとり彷徨いながら、朱鷺常はただ謝罪の言葉を口にし続けた。

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