18話 水着ですが、見過ぎですか?
海といえば何が思い浮かぶだろうか。水着、ビキニ、ハイレグ、パレオ、おっぱい。大体の高校生男子はそうだろう。もちろん俺も類にもれないわけで。
「スゴーイ! 日本の海初めてだからもう楽しいヨ!」
「奏くんはウチの水着どう思う? 似合ってるかなぁ?」
開口一番はしゃぐアイラと、開口一番俺に感想を求めてくる莉里先輩。この2人は正反対と言っても過言じゃないだろう。莉里先輩に関しては海に興味もなさそうだ。
「似合ってると思いますよ……でも、その……ちょっとアレすぎじゃないですか?」
特段大きな爆弾を抱えているわけではないけれど、背が高めな上にスタイル抜群。いつもはスカートで隠れている足もスラリと長い。
これだけならいいのだが、黒いビキニは少し布面積が少なめ。莉里先輩らしくて似合ってはいるのだけど、いかんせん目のやり場に困る。
「アレって何か言ってくれんと分からんわぁ。教えてぇな」
「先輩なら分かってるでしょ……」
「そうそう。いじめ過ぎるのはダメだよ。ところで私も奏くんの感想気になっちゃうなー。ねぇねぇ、どう?」
セクシーポーズよろしく髪をかきあげる麻耶先輩。完全に悪ノリだ。狐のお面は必須なのか、海でもご丁寧に付けている。水着はというと、細い体にフリルが生えていて、腰に巻かれたパレオはすごく彼女らしい。
「似合ってますよ」
「奏くんは褒め言葉それしか知らないの?」
「許してください」
へへっとへりくだった笑いを浮かべると、呆れたように息を吐く麻耶先輩。その後ろから、大きな影を作って本命の結衣が登場した。
「いい波だ」
競技用のようなパツパツの水着。おそらくは趣味のサーフをする気なんだろう。両手にボードを担ぎながら、灼熱の砂浜を闊歩する。
「ユイセンパイ! ワタシにサーフィン教えてくださいヨ!」
「いいだろう。他にも教わりたい奴はついて来い」
「ウチやってみたいわぁ」
結衣先輩にアイラと莉里先輩がついていく。既に海に入っているその他女子はボールでバレーを始めていた。
その輪の中にはヤイヤイと言いながらも楽しんでいるヤンキーが。俺の見たかった景色がそこにあって、むず痒くもうれしくなってくる。
けれど、バレーをしているのは6人。1人少ない。振り返るとペタペタと砂山を作っている狐が一匹。
「なにしてるんですか?」
「なにもしてないをしてる」
黙々と砂を積み上げていく。けれど、海辺のきめ細やかな砂は積んだ途端に下から崩れてゆく。
「どうしてそんなことを?」
「聞きたい?」
海の上なのに、沈んだ声が。声に詰まって、彼女が作った砂山を挟んで対面に座った。
『人のために行動できる人』を信条に置く俺にとって、沈んだ彼女を見逃すことはしたくなかった。いつか、ヒバリさんに見合う男になりたいから。
「言って少しでも楽になるのなら、聞きたいです」
「……そっか。私ね、すぐ自分を偽っちゃうの」
俺は聞くことに集中しながらも、黙々と砂山を積み上げる。カラッと乾いた砂を握りしめると、わずかながら手汗で固まる。
「今もそう、こうやって顔を隠して……自分を見せずにみんなと話して。本当の自分は親にも見せてない。気づいたら、本当の自分なんていなくなってる。私は……このままでいいのかな?」
波の音でも消されそうな声で麻耶先輩は吐露する。
「……本当の麻耶先輩ってどんなのなんですか?」
俺は、つけた仮面も繕った性格も、少し悪ふざけする行動も全部が全部麻耶先輩だと思っている。
言ってしまえば、隠した俺も心の内にハマる俺も俺だし、本当の自分だ。だから、彼女の思う本当の自分とやらが気になってしまった。
「ごめんね……奏くんには見せられない。きっと、君を傷つけることになる」
麻耶先輩は俺の言葉を振り切るように立ち上がる。そして一言。
「私はこのままの私でみんなと関わっていいのかな?」
「そんなの、当たり前じゃないですか」と、そう言う前に彼女は歩き出す。まるで、答えは求めていないみたいに。
残った砂山は、やけに俺が座っていた方だけ盛り上がっていた。
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