第13話 ハルヒの葛藤

俺たちが再び教室に戻ってきた時、空気には何か微妙な違和感が漂っていた。ズレた世界を修正するためにハルヒが行った儀式が成功したかどうか、それを確かめるために全員が周りを注意深く見渡していた。しかし、何かが完全には元に戻っていないような気がしてならなかった。


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「どうやら元の世界に戻ってきたみたいね。」ハルヒは祭壇での儀式を終えた後、冷静な表情で言った。


俺たちは一瞬安堵したが、その感覚はすぐに薄れていった。教室の雰囲気や、窓から見える景色にはわずかながらズレが残っているように感じられた。いや、それ以上に何かが違うと俺は直感的に感じた。


「確かに戻ってきたみたいだけど…」俺は曖昧な言葉で続けた。


「でも、何かが違う…?」朝比奈さんが不安げに言葉を継ぐ。


「ええ、何かが…でも、それが何なのかわからない。」古泉も眉をひそめながら教室を見渡している。


長門もまた、無表情なまま周囲を観察していたが、その目にはいつも以上に注意深い光が宿っていた。


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「ちょっと待って、みんな。」ハルヒが突然声を上げ、俺たちの注意を引いた。彼女の表情はどこか複雑で、普段のハルヒには見られないものだった。


「どうした、ハルヒ?」俺は少し心配になりながら尋ねた。


「私、何かを思い出したの…あの儀式の時に、過去の記憶が一瞬だけよみがえったの。」ハルヒは自分の胸を抑えながら、まるで何かを確かめるかのように言葉を絞り出した。


「過去の記憶?」俺は戸惑いながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。


「そう、あの時…私は何か重要な選択をした。それがこのズレた世界を生んだ原因だったかもしれない。でも、正しい選択って一体何だったのか…」ハルヒは真剣な表情で悩んでいた。


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俺たちは全員が沈黙し、ハルヒの言葉を待った。彼女が抱える葛藤が、俺たちにも伝わってきた。


「もし私が間違った選択をしたとしたら、それを正すことができるのは私自身しかいない…でも、その選択が正しかったのか、それとも間違っていたのか…もうわからないの。」ハルヒの声には不安が混じっていた。


「ハルヒ…」俺はどう言葉をかけるべきか迷っていた。


「私は、私の思い通りに世界を変えたいと思っていた。でも、その結果がこのズレた世界を生んだんじゃないかと思うと、どうしても怖くなるの。」ハルヒは視線を下げ、初めて見せるような弱々しい姿を見せた。


「お前がそんなことを考えるなんてな…」俺は驚きつつも、ハルヒが抱える重荷の大きさを感じ取った。


「今までの私は、ただ楽しいことや面白いことを追い求めてきた。それが間違いだとは思っていないわ。でも、そのせいで誰かを傷つけたり、間違った選択をしてしまったのだとしたら…」ハルヒの言葉は続かなかった。


俺は黙って彼女の言葉を受け止めた。ハルヒがこんなに深く悩んでいる姿を見るのは初めてだった。普段は強気で、どんなことにも立ち向かっていく彼女が、今はまるで迷子になった子供のように見えた。


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「ハルヒ、確かにお前の選択がこの世界をズレさせたのかもしれない。でも、それを正そうとしているのもお前なんだ。」俺は慎重に言葉を選びながら続けた。


「お前が悩むのは当然だ。でも、だからこそ、お前の選択は重要なんだ。誰かが間違えたとしても、それを正すことができるのはお前しかいない。」俺はハルヒの目を見つめ、真剣に訴えかけた。


ハルヒはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。「キョン、ありがとう。でも…私はまだ不安なの。」


「不安でいいんだよ。誰だって、正しい選択をするのは簡単じゃない。でも、お前はその不安を乗り越えてきたんだ。これからもそうすればいい。」俺はできるだけ優しく、ハルヒを励まそうとした。


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ハルヒはしばらくの間、言葉を失っていた。俺たちもまた、彼女の葛藤を共有するかのように黙っていた。だが、やがてハルヒは顔を上げ、再び強い意志を取り戻したように見えた。


「そうね…私がやるべきことはまだ残っている。過去の選択が間違っていたのだとしたら、それを正すために何ができるかを考えなきゃならない。」ハルヒは自分に言い聞かせるように言った。


「その通りだ、ハルヒ。」俺は彼女の肩を軽く叩いた。「俺たちはお前を信じている。そして、お前が選んだ道を一緒に進んでいくつもりだ。」


ハルヒは再び小さく頷いた。そして、いつもの強気な笑顔を取り戻した。「そうよ、私たちはチームよ!何があっても乗り越えてみせるわ!」


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その瞬間、教室の中に再び活気が戻った。俺たちは一つになり、元の世界に戻るために、ハルヒの選択を見守り、支えることを誓った。


「まずは、もう一度あの祭壇に戻りましょう。」ハルヒが決意を新たに言った。


「もう一度?」俺は驚きながらも、彼女の意図を理解しようとした。


「ええ、もう一度戻って、今度は私たち全員で正しい選択をし直すのよ。あの時、何かが足りなかったのかもしれない。でも、今度は大丈夫。みんながいるから。」ハルヒの言葉には力強さが戻っていた。


「そうか…それならもう一度やるしかないな。」俺は頷き、他のメンバーたちも同意した。


「それじゃあ、行きましょう!」ハルヒは再び先頭に立ち、俺たちを引っ張っていく。


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俺たちは再び体育館へ向かい、祭壇の前に立った。夜の闇が体育館を包み込み、静寂が俺たちを取り巻いていた。だが、今回は違った。俺たちはハルヒの決意を共有し、全員が一つの目的に向かって団結していた。


「今度は全員でやるんだ。」俺は自分に言い聞かせるように呟いた。


ハルヒは祭壇に手をかざし、深呼吸をしてから言葉を発した。「私たちは、元の世界に戻るために、正しい選択をする。私がやり直したいことがあったとしても、それが正しいかどうかは、みんなで決めるべきだったのよ。」


その瞬間、祭壇が再び輝き始めた。前回と同じように、周囲の光景が揺らぎ始めた。だが、今回は違った。俺たち全員がその光の中で手を繋ぎ、一緒に立っていた。


「行くぞ、みんな!」ハルヒが力強く言い、俺たちは全員でその光の中に飛び込んだ。


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目の前の光が消えた時、俺たちは再び教室の中に戻っていた。だが、今度は違った。教室の雰囲気や、窓から見える景色が、以前のものと同じだった。いや、まさに元の世界そのものだった。


「成功したのか…?」俺は半信半疑で周りを見渡した。


「ええ、元に戻ったわ!」ハルヒは歓喜の声を上げ、俺たちもその声に続いた。


「やったな、ハルヒ。」俺は彼女の肩を軽く叩いた。


「うん、みんなが一緒だったからできたのよ。」ハルヒは笑顔で答えた。


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こうして、俺たちは元の世界に戻ることができた。ハルヒの選択が正しかったかどうかはわからないが、少なくとも俺たちは一つの結論に達した。それは、どんな選択であれ、誰かと共有し、支え合うことで、それが正しいものになるということだ。


「さあ、これからどうする?」ハルヒが再び元気を取り戻して尋ねた。


「とりあえず、今日はもう休もうぜ。色々と疲れたしな。」俺は冗談交じりに答えた。


「そうね、でも明日からはまた新しい冒険が待っているわよ!」ハルヒは笑顔でそう言い残し、教室を出て行った。


俺たちはその後を追いかけながら、再び日常の世界に戻っていった。これからも、ハルヒの思いつきに振り回されることになるだろうが、それもまた悪くないと俺は思った。


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こうして、俺たちの冒険は一旦の終わりを迎えた。だが、それは新たな始まりに過ぎない。俺たちSOS団の物語は、これからも続いていくのだ。

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