第11話 矛盾する過去
学校が終わり、俺たちは教室で再び集まっていた。ハルヒはズレた世界の調査に燃えており、リストを片手に「次はどこを調べようか?」とやる気満々だった。一方で、俺の頭の中には徐々に大きくなる疑問と不安が渦巻いていた。俺たちは本当にこの世界にいていいのだろうか?元の世界に戻れなくなるのではないか?しかし、ハルヒにその疑問を投げかけても、きっと取り合ってはくれないだろう。
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「まずは、体育館を調べようよ!」ハルヒが提案する。
「体育館?なんでまたそんなところを?」俺は訝しげに尋ねた。
「何でって?何かが起こりそうな場所だからよ!教室や廊下だけじゃ足りないわ。もっと広い場所で、何か大きな違いがあるかもしれないじゃない!」ハルヒは、そう言うと立ち上がり、さっさと教室を出て行こうとする。
「やれやれ、全くお前は…」俺は頭を掻きながら彼女の後を追った。
俺たちは他のクラスメートたちが帰り始めた後の静かな廊下を歩き、体育館に向かった。夕方の陽が校舎の影を長く引き伸ばし、廊下はオレンジ色に染まっている。こんな静かな時間帯に学校内を歩くのは、少し不気味な感じがした。
「静かすぎるな…」俺は呟く。
「そう?私はこの静けさが好きよ。何かが起こりそうな予感がするから。」ハルヒは全く恐れることなく、体育館の扉を開け放った。
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体育館の中は薄暗く、窓から差し込むわずかな光がフロアを照らしていた。誰もいない空間は広々としており、その静寂が一層の不安を誘う。しかし、ハルヒは恐れを感じるどころか、まるで冒険家のように足取り軽く中に入って行った。
「まずは、隅から隅まで調べるわよ!」ハルヒは意気揚々と指示を出し、俺たちもそれに従うしかなかった。
俺はハルヒの後ろを歩きながら、ふと、体育館の壁に目をやった。その壁には、以前の学校行事のポスターが貼られている。しかし、そこに描かれた日付がどうもおかしい。
「ハルヒ、これを見てみろ。」俺はそのポスターを指差した。
「どうしたの?」彼女が近寄ってくる。
「この日付、変だと思わないか?俺たちが知っている日付とは違うんだ。」
ハルヒはポスターをしばらく見つめた後、ニヤリと笑った。「やっぱり何かがおかしいのね。これでますます興味が湧いてきたわ!」
「おいおい、どうしてお前はそんなに楽しそうなんだ?」俺は心底呆れつつも、そのポスターに記された日付が、何を意味しているのかを考え始めた。
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その時だった。体育館の入口から、突然音が聞こえてきた。俺たちは一斉にその方向に目を向ける。そこには、見慣れた制服を着た生徒たちが数名立っていた。
「誰だ?」俺は警戒して声をかけたが、次の瞬間、息を呑んだ。そこにいたのは、まさしく俺たち自身だったからだ。
「え…?」ハルヒも驚きの声を上げる。
「まさか…」俺は信じられない光景に目を見張った。そこにいるのは、確かに俺たちSOS団のメンバーだ。ハルヒ、長門、古泉、そして俺がもう一人いる。しかし、彼らは俺たちを見ても何の反応も示さず、体育館に入ってきた。
「これって…一体どういうこと?」ハルヒが困惑の表情を浮かべて呟く。
「どうやら、過去の俺たちがここにいるようだ。」俺は冷静を装いつつも、内心はパニック寸前だった。目の前にいる自分自身が、まるで別の存在のように行動しているのだ。
「過去の私たち?でも、それならどうして私たちがここにいるの?」ハルヒは理解できない様子だ。
「恐らく、このズレた時間軸の影響だろう。俺たちは今、過去の自分たちと同じ時間に存在している…いや、ズレた時間軸が複数重なり合っているのかもしれない。」俺は自分でも何を言っているのかよくわからなくなりながら、推測を口にした。
「そんなことが…」ハルヒは信じられない様子で目の前の光景を見つめていた。
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過去の俺たちは、何かを話しながら体育館の中央に歩いていった。そして、そのまま姿を消したかのように、突然、彼らは消えてしまった。
「消えた…」俺は呟いた。
「やっぱり、ここには何か大きな謎が隠されているわ!」ハルヒは再び興奮した様子で言った。
「いや、これはただ事じゃないぞ。俺たちは自分たちの存在を重ね合わせてしまっている。これ以上この世界にいると、何が起こるかわからない。」俺は真剣にハルヒを説得しようとした。
「でも、だからこそ調べる価値があるのよ!」ハルヒは全く耳を貸さない。
俺は頭を抱えたくなった。このままでは、本当に元の世界に戻れなくなるかもしれないという不安が、次第に大きくなっていく。だが、それと同時に、ハルヒの冒険心に引きずられている自分もいることに気づいていた。
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その夜、俺たちは学校を出て、少し静かな場所に移動することにした。ズレた時間軸について、何か手がかりが掴めるかもしれないと考えたからだ。
「まずは冷静に、今までに起こったことを整理してみよう。」俺は、できる限りの冷静さを保ちつつ、ハルヒや他のメンバーに提案した。
「まず、私たちがこのズレた時間軸にいること。次に、過去の自分たちが現れたこと。そして、そのまま消えてしまったこと…これらが全て何を意味しているのかを考えなきゃいけない。」俺は言葉を選びながら、話を続けた。
「でも、どうやってそれを解明するの?」朝比奈さんが不安げに尋ねる。
「それは…俺たち全員で考えるしかない。」俺は答えを持ち合わせていなかった。
「とにかく、もっと調べる必要があるわ!」ハルヒは決して諦めようとしない。
「まずは学校の外を調べてみるか?」古泉が提案する。
「そうね、それがいいかも。」ハルヒはその提案に乗り気だった。
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俺たちは学校の周りを歩きながら、何か異常がないかを探した。夜の静寂が不安を掻き立てる中、俺たちは周りの景色に目を凝らしながら進んでいく。だが、どこを見ても、学校周辺はいつもと変わらない風景だった。
「何も変わってないように見えるけど…」俺は呟いた。
「いや、絶対に何かがあるはずよ!」ハルヒは決して諦めようとはしない。
俺たちはさらに探索を続け、ついに学校の裏手にある古びた倉庫にたどり着いた。そこは普段あまり使われていない場所で、鍵もかかっておらず、誰も近づかない場所だった。
「この中に何かがあるかもしれないわ。」ハルヒが言った。
「いや、やめておいた方がいい。何かが起こるかもしれない。」俺は警告したが、ハルヒは一歩も引かない。
「それでも調べなきゃわからないでしょ?」ハルヒは断固として扉を開けようとする。
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倉庫の扉を開けると、そこには埃にまみれた古い物品が山積みになっていた。ハルヒはその中をずかずかと進み、何かを探しているようだった。
「ここには…何もないみたいだな。」俺は肩をすくめた。
だが、ハルヒは何かに気づいたようで、急に立ち止まった。そして、倉庫の奥にある棚の下から、古びた箱を取り出した。
「これって…」ハルヒは箱を開け、中を覗き込んだ。
箱の中には、古い日記のようなものが入っていた。それは黄ばんだ紙に書かれた、何十年も前のものだった。
「この日記…何か手がかりがあるかもしれない。」ハルヒは慎重にページをめくり始めた。
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日記の中には、過去の出来事が詳細に記されていた。しかし、その内容は俺たちが知っている歴史とは微妙に異なっていた。まるで、違う時間軸での出来事が書かれているようだった。
「これって…もしかして、別の世界線での出来事?」俺は驚きを隠せなかった。
「そうかもしれないわ!」ハルヒは興奮してページをめくり続けた。
だが、その時、日記の最後のページに到達すると、そこにはただ一つの言葉が書かれていた。
「『戻れ』…?」
その一言が、俺たちの心に重くのしかかった。まるで、誰かが俺たちに警告を発しているかのようだった。
「これは…どういう意味なんだ?」俺はその言葉の意味を考えようとしたが、頭が混乱していた。
「戻れってことは、この世界を離れろってことかしら?」ハルヒは真剣に考え込んでいる。
「この世界から出ないと、取り返しのつかないことになるかもしれない…」俺は不安を覚えた。
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その言葉が、俺たちに何を伝えようとしているのかはわからなかったが、確かなことが一つだけあった。俺たちはこのズレた世界から早急に脱出する必要がある。そして、元の世界に戻る方法を見つけなければならない。
「ハルヒ、ここから出よう。何かが間違ってる…」俺は真剣に彼女に提案した。
「でも、まだ解明してないことがたくさんあるわ!」ハルヒは迷っている。
「このままでは、元の世界に戻れなくなるかもしれない。俺たちには、元の世界に戻る責任がある。」俺はハルヒの目を見つめて言った。
ハルヒはしばらく考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。「わかったわ、キョン。ここから出ましょう。そして、元の世界に戻る方法を探しましょう。」
その瞬間、俺はほっと安堵の息を漏らした。ハルヒが理解してくれたことに感謝しつつ、俺たちは再び元の世界に戻るための手がかりを探し始めることにした。
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ズレた世界の謎は深まり続け、俺たちの前に新たな課題が立ちはだかる。しかし、俺たちは一つの決意を固めた。必ずや元の世界に戻り、すべてを元通りにする。たとえそれがどんなに困難な道であろうと、俺たちはそのために全力を尽くすしかない。
「さあ、次の手がかりを探しに行きましょう!」ハルヒは再び元気を取り戻し、俺たちを導こうとする。
「やれやれ、また始まったな…」俺は苦笑いを浮かべながらも、ハルヒの後を追いかけることにした。
そして、俺たちの冒険は再び動き出す。元の世界に戻るための旅が、今まさに始まろうとしている。
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