第24話 魔法と薬の『ウィザード』へようこそ!


「いらっしゃいませ、魔法と薬の『ウィザード』へようこそ!」


 店のドアを開けるなり元気な挨拶が聞こえてきた。カウンターに並ぶ二人の女性は同じ顔をしていたが片方は底抜けに明るい笑顔、片方は緩みのない表情をしていた。


「こんにちはミュー、フィリー」


 五十鈴は軽く手を上げて二人に挨拶をした。


「なんだ五十鈴か」


「もう! フィリー。ダメだよそんな愛想のない声で~」


「ミューみたいに馬鹿っぽく笑ってると、お客さんからすぐオマケしてって値切られるからこれで良いの」


「もうフィリーったら。お客様の前でみっともないこと言わないで!」


「そう言えば、見ない顔」


 ミューとフィリーの視線は五十鈴の後ろ、運と久遠に向けられた。


「紹介するよ。こちらは私の命の恩人、日野運殿と妹の久遠殿だ」


「ほほ~。彼が噂の」


「五十鈴の彼氏」


「ちちち、違うってば!」


 五十鈴は赤くなって彼女らの追及を遮った。


「そして運殿、彼女達が私の友人。魔法のミューに薬学のフィリーです」


「ども~。ミューでーす! どうぞご贔屓に~」


「私はフィリー……変わったお薬の提供、ありがとう」


「ああ。ボディソープの件だね。よろしく、日野運だ」


「妹の久遠です! これから取引でもお世話になります! よろしくお願いします!」


 一通り挨拶を済ませてからミューが本題を切り出した。


「それで五十鈴ちゃん。今日はどうしたの?」


「実は、こちらの運殿の魔法適性を見て欲しくて来たんだ。出来れば啓示も」


「おっけー! じゃあ早速準備するねー」


 そう言ってミューはカウンター後ろの戸棚を漁りだした。


「五十鈴。さっきから気になってたんだが、啓示って何だ?」


「言ってしまえば自身の中に秘められた魔法の素質を引き出してしまおうとする試みでしょうか。もちろん実際の魔法の習得には時間が掛かりますが、一から始めるよりは断然に早いんですよ」


「それは有り難いな。でも、もしかして結構お金掛かったりとか?」


「あ、平気平気~! 今日はサービスしちゃうよ~! フィリーが珍しいお薬を貰ったし、なんたって五十鈴ちゃんの恩人だからね~!」


 振り返ったミューは片手いっぱいの大きさの水晶玉を持っていた。


「はいはい~。じゃ、運さんはこちらの水晶玉に手をかざしてちょうだいな~」


「了解。こんな感じかな?」


「そうそう、そのままちょっと水晶玉に意識を集中しててね~」


「解った」


 そうして暫くの間何ら変哲の無い水晶玉を運は見続けた。


「う~ん、おかしいなあ。何の変化も無いや」


「え。それってもしかして俺、才能無い?」


「うん。残念だけど、そういうことだね~」


「え。それってどう言う……」


「この先どれだけ努力したって報われないってこと~。あはは~」


「「ガーン……」」


 早くも世界最強の夢が砕け散った運、久遠、五十鈴の三人は膝を屈した。


「あれ? でもちょっと待って?」


「何かチャンスが!?」


 縋るように食い付く運。


「う~ん……おかしいんだよなあ~。気配はあるんだよ~。気配はあるんだけど、水晶玉には全然反応が無いんだよなあ~。こんなの初めて」


「け、気配があるとは?」


「ん~。何の根拠も無いけど、私の勘? みたいな。この感覚だと、火、水、風、氷、雷、光……あたりかな」


「「六属性!?」」


 驚く久遠と五十鈴。


「ん、それって凄いのか?」


「凄いって運殿……。私はこれでも多少腕に腕には覚えがありますよ? ありますけれども使える魔法は風と土の二属性だけです」


「因みにお兄ちゃんがやっつけた魔法使いのあいりさんは四属性だったよ」


「マジか」


「待って。実はまだ、私にも解らない属性が潜んでいるかも知れないな~」


「「更に!?」」


「確かに薄っすらと感じるんだよな~。何か良く解らない強大な力? 的な」


「まさか……俺に、そんな力が眠っていただなんて……」


 運は震える自分の両手を見つめた。


「マスター、思い出してください。火・水・風・土・トラックです」


(って、お前かよ! 良く解らない力とはナヴィのことだな? 期待した分ガッカリだよ)


 運は自己完結して肩を落とした。そこへミューが畳み掛ける。


「ま、どれだけ気配があろうが水晶玉に何の反応も無い以上、今のままじゃどれだけ努力しても報われないんだけどね~。あはは~」


「ず~ん……」


 運の両肩は更に重く垂れ下がった。


「ま、でもさ~。何がキッカケになるかも解らないし、ダメ元で啓示やってみよっか~」


 ミューの明るい声だけが多少の救いに思える運であった。

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