第3話 トラック無双

 エンジン始動に伴い全機能が解放され、ナビ画面が表示された。


「ナヴィ、どっちに向かえば良い?」


「周辺情報検索、現在地及び周辺の地勢情報取得、マップを表示します。広域表示、広域表示、広域表示……マスター、ご覧のとおり現在地周辺は広大な荒野となっております。その西側にはイロハニ帝国、東側にはホヘト王国が主だった国として挙げられますが、各国の情勢等によっても最適な経路が異なって来るものと思われます」


「知るか! じゃあ適当に、西!」


 運はハンドルを切ってアクセルを踏んだ。


「言っとくが俺様は殺されるぐらいなら容赦しねーぞ。どうせもう一人轢き殺しちまった人間だからな。立ちはだかるものは全員轢き殺す!」


 アクセルは全開。トラックは徐々に速度を上げ、やがてその勢いは無人の境を行くが如く立ち尽くす西軍兵を蹴散らして進んだ。


「レレレレレレレレレ、レベ、レベ、レベルが上がりました」


「うるせえ黙ってろっ!」


 ナヴィの声も耳に入らない程に運は全神経を前方にのみ向けていた。


「スキルロケットスタートを取得しました」


「うるせえ! それよかこのガタガタを何とかしろ!」


「承知しました。スキルポイントを消費し、スキルホバークラフトを取得」


 死体を踏みつけることの無くなったトラックは更に勢いを増し戦場を爆走する。


「うはははははっ! こりゃ良いぜ! 人がゴミのようだ!」


 西軍兵の海原を、まるで地図に線を引くように駆け抜けるトラック。


 しかしその行く手の先に突如、地面が隆起した土壁が作り出された。


「くそっ! 異世界の魔法か何かかよっ!」


 運は素早くハンドルを切りそれをかわす。それに合わせて車体が横滑りし、その荷台はまるでドラゴンが尾を薙ぐが如く多くの西軍兵を吹き飛ばす。


「スキルドリフトを取得しました」


 前方に更に現れる複数の土壁、それをかわす為に方向転換を余儀無くされるトラック。


「くっそ! 止まったら殺られる! テメエら、退けええええ!」


 蛇行やドリフトを続けながら西軍兵を蹂躙する。


「スキル自由旋回を取得しました。スキルG耐性を取得しました。スキル……」


「さっきから煩いんだよっ! これじゃいつまで経っても西に抜けらんねぇぞ!」


(しかも何気に西軍兵轢きまくりで、むしろ西方面に向かい難くね?)


 その時、西軍の中から数発の火炎弾や礫弾がトラックに向けて放たれた。それは少なくとも運転席にも衝撃をもたらす威力の攻撃であった。更に兵の合間を縫うように斬撃の波がトラックに向けて放たれた。


「やべえ。これはいよいよやべえ。西は無理だ」


 辛くも斬撃を交わしつつ、運は方向を転換した。


「ナヴィ、東側に抜ける。なるべく兵を轢かないルートは無いか」


「ルート検索。進路上に兵が存在しないルートはありません。ただし、現在のマスターのレベルであれば新たなスキルを取得し、蹂躙を回避することは可能です」


「やってくれ、頼む。せめて東軍には可能な限り被害を与えずに東側の国へ行きたい」


「かしこまりました。スキルポイントを消費し、スキル飛行を取得」


「なにっ!?」


 瞬間、トラックは大地を大きく離れ、空を走った。


 それは両軍のぶつかる戦線の直前、最後まで西軍兵を蹂躙してのフライトであった。


「うはははははっ! もう訳が解んねー。俺様、どうやって運転してんだこれ」


「お答えします。マスターの現在の職業運転手(トラック)の初期スキルにより、全てのトラックはイメージのとおり自由に乗りこなすことが可能です」


「はああ。良く解らないが……異世界って、こういうもんなんだな」


「マスターが異世界転移者である情報を入手。この世界の情報を必要とされる可能性を推測。ナヴィにおいて情報収集を行いますか?」


「ああ、頼む」


「かしこまりました」


 空を飛ぶトラックは悠々と東軍兵の海を下に走り抜けて行く。


「うは! 東軍の奥にいる奴、アレ、もしかしてロボット兵器じゃね? すげえ、ここは剣と魔法とロボットの世界かよ!」


 運は両手を窓に付いて眼下の東軍を眺めていた。


「すげえよ、魔法の西軍、機械の東軍と言った感じか? それとも両国とも両方ありか?」


「お答えしますマスター。ご高察のとおり、ここは剣と魔法、機動兵器トラクターを駆り覇権が争われる世界。……ようこそ、『異世界エヒモセス』へ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る