第4話 皇帝陛下
「味方が誰一人居ないとは、哀れだな! 聖女よ! その命を今此処で終わらせてやる!!」
大蛇は魔法が解けたことに少し動揺を見せたが、周囲の反応を見ると私を見下すように目を細める。私の味方をする者が現れることを危惧していたようだが、貴族たちを守るように立つ衛兵達を見ると笑い声を上げた。
そして大口を開けると、私に向かって飛び掛かる。如何やら一体で私を倒すことが出来ると判断をしたようだ。全く心外である。私が今までどれだけの魔物を討伐して来たと思っているのだろう。
右手の拳を前へと突き出そうと、一歩前へと踏み出した。
「エリー!!」
私の愛称を呼ぶ声と共に、目の前に迫っていた大蛇が一太刀で切り裂かれる。そして断末魔を上げることなく、大蛇は黒い塵となり消え失せた。
「……っ、アレク様!?」
「エリー、大丈夫かい!? 怪我はないかい?」
銀色の髪に青い瞳を持つ、男性が剣を鞘に納めると私を抱きしめた。
「わ、私は大丈夫ですが……アレクシス陛下のお手を煩わせてしまいまして申し訳ございません」
「そんなことを言わないでくれ。大切な君が敵陣に一人で居るなんて耐えられなくて約束を破ったのは俺だ。何時も通りに接してくれないか?」
彼は隣国の若き皇帝陛下である。一年前、魔物討伐の際に樽に閉じ込められた私を助けてくれたのは、彼の騎士団だった。彼は私を保護し、共に魔物達を討伐した仲である。命の恩人であり、戦友であり、想い人だ。
帝国の人々は皆、優しく聖女である私を大切にしてくれた。国境付近の魔物を退治した後も国に帰ることを心配され、この状況を魔法で中継していたのだ。大蛇が私に襲い掛かり、アレク様が瞬間移動の魔法を使い助けに来てくれた。
約束というのは私が手に負えない危険な目に遭わない限り、手を出さないというものだ。私はこの国の聖女であり、アレク様は隣国の皇帝陛下である。立場がある者同士、隣国間での争いに発展する可能性がある為の約束だった。
「……その、助けて頂きありがとうございます。アレク様」
「エリー、君が無事で本当に良かった」
約束を反故にしてしまったことを気にしている彼に感謝を伝える。私一人でも大蛇を倒すことは容易だったが、助けに来てくれたことが嬉しくて仕方がない。彼と出会うまで一人で戦ってきた為、誰かに背中を預けることが出来る安心感を覚えた。
頬を優しく撫でられ、アレク様の手にそっと頬を寄せた。
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