六
▶︎明るい家族計画【5】
急に明日来てくれるって連絡がきたからちょっと面食らったけど、すごく嬉しい。あと、電話の声はかなり機嫌がよさそうだった。何かいい話でもあるのかも。最近全然良いことなくて、ずっと悩みっぱなしだったから、嫌な気分が吹き飛ぶような話だといいな。
もしかして離婚とか? あー、嬉しいけど、それを期待しちゃダメ。悲しむ人が出ちゃうから。私はそこまで望んでいない。そのことは、お腹の子もちゃんとわかってくれるはず。だから無理はせず、せめて私とこの子を末長く、温かく見守ってくれればそれでいい。
あと、できれば私のこと、今後もずっと愛してほしいかな。この子と二人で生きていくって決めてはいるけど、やっぱり二人だけじゃ辛かったり、寂しかったりすると思う。そんなとき、ちょっとだけ私のわがままを聞いてくれさえすれば、他には何もいらない。このささやかな願い、彼に伝わってくれるといいな。
▶︎明るい家族計画【6】
あいつマジでヤバい。さすがにこれ以上は無理かも。アザだらけになったから、しばらく外に出られないじゃん。メイクじゃ絶対ごまかしきれないだろ、これ。
怒りにまかせた出任せだと思うけど「死にたいんか!」はマジ引いた。ここまでキレられたのは初めてかも。しばらくは電話にも出ないほうがいい。
でもこれで覚悟ができた。やれるもんならやってみろ。この子は私が命に代えてでも守る。たとえ父親でも、そんな横暴は許さない。
種を流し込んだだけのくせに、偉そうな顔すんな。誰もお前に育ててくれなんて言ってない。この子は、私ひとりで立派に育ててみせる。文句あるか!
あーーーーイラつく! 今まで我慢していたものが全部、溶岩みたいになって喉まで上がってきてる! どうにかして思い知らせてやりたい! あいつをめちゃくちゃにしてやりたい!
▶︎明るい家族計画【7】
まだ胸がドキドキしてる。我ながらここまでやるとは思わなかった。でも、この子を否定されたままじゃ悔しすぎる。私は間違ってない。だから覚悟を見せておかないと。私はただ、この子を守りたいだけ。
あいつのところに乗り込んで、家族に話を聞いてもらった。奥さんは泣いてた。いつも怒鳴り散らすあいつも、今日ばかりは魂が抜けたみたいにおとなしかった。私が訪ねて来るなんて、想像もしなかったはず。それはそうだ。私だって自分の行動が最善だったとは思っていないし、自分の大胆さに自分で驚いている。
これで私たちの関係は大っぴらになった。もうあいつの独断で、この子を消し去ることはできない。あいつにまだ人の心が残ってるなら、この子を認知してくれる可能性も出てきた。家族はこんな忌まわしい事件を引きずりたくはないだろうけど、かといって素直に認知するのもプライドが許さないだろう。
お前に守るものなんてもうない。目を背けてばかりいないで、いい加減に現実を見ろ。奥さんと別れてほしいなんて言ってない。今後も絶対に言わない。でもこの子のために、せめて父親にはなってほしい。
そうしてくれないと、この子が大きくなって「お父さんは?」って訊いてきたとき、私はどう説明すればいい? 本当にいないなら仕方ないけど、本当はいるのにいないと答えるなんて、絶対におかしい。
この子の存在は、お父さんを取り上げられなければならないほど罪深い? 生まれる前のことなんて、この子には少しも関係ないじゃない。それなのにどうして自分の都合だけで、命と父親をこの子から奪おうとするの? あんたはそのくらい偉いってこと? 何様? 神様? 仏様?
▶︎明るい家族計画【9】
バカ! バカ! バカ! バカ!
やっぱり私は馬鹿だった。あんなやつの口車に乗って、ほいほいと部屋に入れたのが間違いだった。あいつは飼い犬に手を噛まれたことを心底恨んでる。でもそうなる前は、確かに私を愛してくれていた。こないだ数発殴られたけど、さすがにあいつも反省しているはず。だって子供まで作ったんだから、私のこと、心から嫌いってわけじゃないでしょう? だからもう、手だけは出さないって信じてた。
泥酔してたから嫌な予感はしていたんだけど、まさか部屋に入った途端殴りかかってくるとは思わなかった。私はあいつにとって、すでに人じゃないのかもしれない。
「お前がガキをやらないなら、俺がやってやる!」
あいつは完全に狂ってた。お腹を蹴られたのは一回だけだったけど、私の子は大丈夫だろうか。今のところ体調に変化はない。ただ、散々ぶたれたし蹴られたから身体中が痛くてたまらない。骨は折れていないと思う。でも顔はアザだらけ。今回の引きこもりは、前回よりさらに長引きそうだ。
最悪の気分だけど、早いうちにあれほど危ない男だと知ることができてよかったのかもしれない。何があっても二度と部屋には入れない。私のケガは治るけど、お腹の子は取り返しがつかない。酔いが
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