7-7
「わあっ!?」
着地に失敗し、〈ヴェスパ〉が体育館の屋根上を転がる。
――インパクト。
ちなみが悲鳴をあげ、キックの
勢いは止まらず、視界がぐるぐると回転する。
素早く状況確認。
「――っ!?」
その最初の一発をかわせたのは本当に
いつの間にか〈ヴェスパ〉を
トリガーを引く。
〈ヴェスパ〉のガトリング砲が
「やば」
――かわしきれない。
すれ違いざま、『アンドラス』が振るわれた。
斬り飛ばされた天井から、
フェイントをかけつつ〈ヴェスパ〉を振り向かせる。踏み込んできた〈ザミエル〉が振るった片手剣は、〈ヴェスパ〉の左肩を
「お返しだっ!」
左手のガトリングを〈ザミエル〉の左脚に突っ込み、ゼロ
〈ザミエル〉がよろける。そこに〈ヴェスパ〉が
「はあ……、はあ……っ」
――息が上がっている。
ちなみは〈ヴェスパ〉を体育館の屋根から飛び降りさせた。地面を転がって着地の
残っている武器は八十四ミリ
〈ヴェスパ〉は
もう機体はボロボロだった。ちなみは素早く状態をチェックしながらマニュアルでダメージコントロールを実行する。
油圧ホースの
右のカメラが
一歩
「お願い、もうちょっとだけ頑張って……!」
片手で機体を
校舎の角を曲がる。
最初に破壊されたホールの
『たった数百万円で買える中古の量産兵器を使って、成体の悪魔と互角に戦う
「そーかもね!」
〈ヴェスパ〉が走り込みながら振り向いた。
背後から〈ザミエル〉が追ってくる。このままではすぐに追いつかれてしまうだろう。
ちなみはトリガーを引いて最後のロケット弾を放ち、全速力で〈ヴェスパ〉を前進させた。
もう、ちなみには武器が残されていない。完全な
そのままテニスコートに駆け込み、急停止して機体を
『しかし、これで終わりです』
「それはどーかな」
軽くステップを
「小鈴っ!」
ちなみが外部スピーカーで
『ちなみちゃんっ!』
ぼろぼろの〈イフェイオン・ヴォイド〉が
『
「だよね!」
〈ヴェスパ〉のぐしゃぐしゃになった右手が動き、さっきの攻撃の
『……素晴らしい』
オレンジの二脚兵装が、悪魔の
悪魔ザミエルが
『フライシュッツ。やはりきみは破壊のカリスマ、
そうかもしれない。
悪魔にとって価値があるのは、『穂高ちなみ』ではなく『フライシュッツ』だ。この
けれど、今ここに立ち、悪魔と戦い、小鈴と一緒にいたいと願っているのは、
「それでも、私は……」
そこでふと、
だから、ちなみは得意げに笑ってこう言ってやった。
「私の名前は穂高ちなみ――『量産機無双JK』だ!」
トリガーを引く。
六十六ミリグレネードが連射される。
*****
ちなみと小鈴が、公園のベンチに並んで腰かけている。
〈ザミエル〉を破壊した後、すぐに〈ヴェスパ〉も
ちなみが悪魔を『
だから、二人は学校を後にし、そこそこ
ちなみは
対して小鈴は普通にブレザー制服を着ている。
「シャルーアの言ってた通りだよ」
小鈴が言った。
「今は小鈴と悪魔の人格が分かれてて、悪魔が
「そーなの?」
「うん」
「あのね」
空を見上げながら小鈴が言った。
「小鈴はね、ちなみちゃんにだったら殺されてもいいよ。小鈴と悪魔の
「え、やだ」
「やじゃない」
「やだ」
「だめ」
「やだあ~っ!」
そう言いながら、ちなみが小鈴に抱きつこうとする。
「暑苦しい、うっとおしい! くっつかないでよ!」
顔をしかめた小鈴がちなみを押しのける。それでもあきらめずに小鈴にくっつこうとしたちなみのお腹から、『ぐう』と大きな音が聞こえてきた。
一時停止した二人が顔を見合わせる。
そしてちなみは赤面し、小鈴はにやにやと笑い出した。
「え、今のなに? もしかしてお腹すいちゃったのかな? ねえ、ちなみちゃん?」
お腹をぎゅっと押さえたちなみが、赤い顔のまま
「しょ、しょーがないじゃんっ。だってもうお昼だよ!?」
「ちーちゃんは腹ペコでかわいいねえ。お腹すいちゃったねえ」
「ちーちゃんって呼ばないで!」
顔を真っ赤にしたちなみをひとしきりからかったあとで、小鈴が「でも、ほんとにお腹空いたね」と言い出した。
「ハンバーグとか食べに行く? 好きなんでしょ」
「うん、好き! 行きたい! ……あ、待って」
ちなみは自分の身体をひとしきり
「やっぱ先お
「そうだね。じゃあ
「行く行く!」
目を
『ちなみちゃんにだったら殺されてもいいよ』
その言葉に
そして、悪魔になった小鈴を殺せる人間は、世界中探してもそうはいない。だったらやはり、その役目は穂高ちなみであってほしかった。
立ち上がった小鈴は、ちなみの後ろ姿に
「だから――それまでずっと一緒にいてね、ちなみちゃん」
〈第一部『自分探しJK』 終わり〉
・ノート:https://kakuyomu.jp/users/kopaka/news/16818093086295863053
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